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【短編小説】時代と創作

 お盆。仏教では御先祖様方が子孫のもとへ帰ってくる期間。この時期になると精霊馬というものをきゅうりと茄子を使って作る家庭がある。
 言い習わしとしては、先祖が早く帰ってこれるように馬を模したものを、そしてお盆が終わる頃に先祖がゆっくりと帰れるように牛を模したものを作る、というものである。

 少し話は変わるが、近年、仏教において亡くなった方がいる世界、つまり仏の世界でも仏ネット(現世でいうインターネット)なるものが普及してきた。そこではhotooke.jp(仏ネット上での検索サイト。現世でいうYahoo)を用いて現世の情報を含む沢山の情報が行き交っている。

 そのhotooke.jpで近年お盆が近くなると多く寄せられる質問が、「うちの子孫の精霊馬が馬の形を為していないから、乗り方がわからない」というものである。
 現世では、日本人の創作意欲の賜物なのか、ただのおふざけなのか、もっと早く帰ってこれるようにときゅうりを使ってバイク等を作るのが流行っているらしい。乗り物が発達する前に亡くなってしまった人はそれがどのようなものなのかがわからないので、結果としてそのような質問が寄せられるのである。

 その一方で、若くして亡くなってしまった人からは「精霊馬というが、そもそも馬の乗り方がわからない」という質問も寄せられている。
 彼らのような若者はどちらかと言えばバイク等の方が帰りやすいのかもしれない。

 現世でも時代に依って、移動手段や考え方は様々であるが、それは死後も変わらないかもしれない。
 どちらにせよ、難儀なものである。

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