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ヒトリシズカ【ショートショート】【叙述トリック】

みんなと別れて一人になると考える。

あの人が好き。でも恐らく私のこの想いはずっと伝わることはないだろう。
伝えたことはある。幾度となくある。でも私がこういうふうに想っているなんてあの人は思いもしないだろう。
あの人なんて言い方は変かもしれない。
私が心の中でこう呼んでいると知ったらみんなきっと驚くだろう。

あの人の優しい笑顔が好き。
あの人の少しハスキーな声が好き。
あの人の手が好き。白くてやわらかで、ずっとつないでいたい。
でも、手をつないだことはほとんどない。
毎週のようにつないでいたような気もするのに、不思議。

一人で眠る前に考える。

私とあの人とは結ばれない。
あの人は彼の親友で私の大切なお友達。ただそれだけの関係。
もしかして私に優しくしてくれるのはお仕事だから?
そんな風に考えてしまう自分が嫌だ。

私と彼が結ばれたとき、あの人はどうするのだろうか。
ずっと見守っていてくれるだろうか。
それとも、次のお仕事先に行ってしまう?
あの人が去ってしまったら私には追いかけることはできないのに。

一人で歩きながら考える。

あの人の本当の雇い主は別にいるらしい。はっきりと言われたことはないけれど私には分かる。長いお付き合いだもの。

長い? 長いかな? 実際の期間はそれほど長くは無いはずだけれど。
でもそれよりずっと、ずうっと長く一緒にいるような気がする。なんて濃密な時間。

あの人をよこしてくれた、そのことだけは雇い主さんに感謝したい。どんなに感謝してもしきれない。
あの人に会わなければ、この胸の痛みはなかったろうか。
もう、想像することさえできない。
たとえやり直したとしても、私はきっとこの想いに辿り着く。

まだ見ぬ雇い主さんにお願いしたら、私の願いは叶うだろうか。
そんなことを望む私はずるい女だろうか。

歩く先に彼の姿が見えてくる。
私は私の想いを、私の心の片隅にある場所に丁寧にしまってから、いつものように彼に呼びかける。





「おはよう、のび太さん」

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