【#6】この度、入寮しましたので報告します。

はじめに、入籍の話だと思って記事を開いた方へ。よもやそんな人はいないと思いますが心配なので書いておきます。この記事は、私が結婚する段取りが決まったという話ではなく、留学先の大学の寮に無事入ることができたという話です。もし入籍の話だと誤認していたのだとしたら、あなたは周りが続々と結婚し始めて焦っているのでしょう。入籍と入寮を間違えるようでは、あなたがより重要視しているパートナー選びも間違える可能性が高いでしょう。そんなあなたの一番の問題点は、自分を客観視してみることができないことです。ゆえに、あなたは慌ててミスを起こすのです。

まずは、落ち着いてゆっくり深呼吸をしましょう。3秒かけて大きく肩を開きながら吸って、吸ったのと同じ秒数だけ吐きます。

いかがですか?落ち着きましたか?

内容もない低レベルな指示を従順にこなしてしまったあなたは、モラハラ傾向のパートナーにハマりやすいと思われます。気を付けましょう。


と、独身の私が語ってみる。ここまでが余談で、題にもある通り留学先の学生寮に無事入寮できたので、その話をしようと思う。なんだか、日記テイストな記事を書くのは、いささか意識高い系の学生のようで気が引けるのだが、まだ服に日本の洗剤の残り香がある時期のフレッシュな感性でどう思ったかを記録しておこうと思う。

4月1日。
長かったフランクフルト生活を終え、旅立つ日がやってきた。午前中は語学コースの授業の最終日で、10:30までの前半戦にだけ出場して後半戦は移動のためお休み。5泊もの間お世話になったthe niu Charlyをチェックアウト。フランクフルトの中央駅のすぐ近くの浮浪者等が多い一番治安の悪い地域でした。駅で列車のチケットを買っているときに声を掛けてきた物乞いに、ビタ一文渡さなかったら、拙くファッキューと言われたのもいい思い出。後で調べたら麻薬ストリートとかなんとか書かれてましたが、スリにも合わなかったので結果オーライ。駅は近かったし。

ICEという高速鉄道のシュツットガルト行きに乗ってマンハイムへ。マンハイムで乗り換えてハイデルベルク中央駅へ。所要時間は合わせて1時間15分ぐらい。思ってたよりもだいぶ近い。

駅に着くと、ハイデルベルク大学日本語学科から来たバディ・フェリクス君が出迎えてくれました。そして、自己紹介もほどほどに連れられるまま、旧市街のキャンパスに移動。なんとこの日は、あいにくの雪。つい4,5日前まで暑くて半袖でフランクフルトを歩いて回ったのはすっかりウソのよう。

旧市街キャンパスでは、寮のカギの受け取りだけをしようと思っていたけど、保険会社が来ているというので予定変更。ドイツ国内の保険会社の無制限保障というのに加入しないと住民登録等々できない。そこでとりあえず、そこにいた保険会社に加入することに決めた。保険会社の女性というのが英語で説明できるというので聞くと、恐ろしく流暢で参ってしまう。余りにもきれいなもんだから、全部聞き取れるけどうなずくので精一杯。質問とかは本当に気になるとこだけするのが関の山だった。

保険の手続きを終えて、今度はカギの受け取りへ。カギの受け渡し担当の女性は、恐らくは大学の学生がアルバイトか自治委員かなんかがやっているんだろうけど、またも素晴らしく英語をお話になさるので恐縮してしまう。ちなみに、後述するがこの現象は結局一日中続く。

これで無事カギの受け取りが終わったので、いよいよ寮へ向かう。寮は中心地のビスマルクプラッツ(ビスマルク広場ぐらいの意)から、路面電車で10分、15分ぐらいのところにある駅で降りてさらにそこから徒歩5分ぐらいのところ。駅から自転車で20分ぐらいの実家に暮らしていた私からするとアクセスはべらぼうに良いと感じる立地。

建物の外見はソ連の労働者住宅みたいだなと思って見てたら、本当に1950年代に駐屯していたアメリカ軍の兵舎を改築したものだった。およそ築70年。入ってみると確かに小汚い。部屋はWG(ヴェー・ゲ―と読む)と呼ばれるフラットルームシェアで、机とベットが付いている自室は確保されていて、シャワートイレキッチンは共用タイプ。

早速、部屋に着いたのでタンスの中を物色してみる。かなりほこりっぽくて、ノルウェイの森のワタナベ君が住んでいる男子寮を思い起こさせる。一番上の段の背伸びしても届かない棚を漁ると、あったあった処分されていない黄ばんだ本が出てくる。全部で7冊あって、最後に黒のブラジャーまで出てきた。上だけ置いていったと思うとなんだかマヌケな気もするんだけど、それ以上にフラットルームシェアの部屋の私が乗っただけで軋むベットで良く至ったなと勝手に邪推して呆れてしまった。

いや、尾崎も軋むベットの上でやさしさを持ち寄っているので、もしかしたら世界共通で若さには木製家具の甲高い悲鳴など関係ないことなのかもしれない。愛がしらけてしまう前なら。と、ここまでは全部しがない独身男の妄想だけど実際はどうなのか、継続して調査する必要がある。ここまで書いた自分に悲しくなる。また要らぬ話を書いてしまった…

WGのルームメイトはドイツ人のフロリアン君。ベルリンから来た歴史学専攻の博士課程の学生。彼もまた英語が達者で、IKEAに行きたいのだけれどどれぐらい遠いかと聞いたら、とても遠いが車で行けばすぐだよと。彼はなんと車を持っているそう。なので今度載せてIKEAまで連れて行ってもらえるかもしれない。それにこれから、まだまだ他にもルームメイトはやってくるのだろう。

寮の近くにはスーパーマーケットがある。歩いて5分ぐらい。近くて助かる。低価格帯スーパーREWEと格安スーパーALDIとドラックストアdmがまとめて並んでいる。スーパーの横にスーパーの横に並んでいるのが良くわからないがドイツだと割と普通の光景。特にREWEはフランクフルトで良く行っていた都市部店舗と違い、郊外店舗でコストコのように大きい。平たく言って、平均的な日本のスーパーの3倍のサイズがある。そして、店舗面積の3分の1がワインやビールやその他もろもろのお酒コーナー。つまり、日本のスーパーサイズのお酒コーナーがある。

入り口のお総菜コーナー的なところには割高だけどお寿司なんかもある。iインスタント食品コーナーにはカップヌードルもあった。さすが日清食品。やっぱり安藤百福先生は偉大だなぁ。困ったときにお世話になろうと思う。この日はパンとハムとチーズと水を買って帰宅。

ところがここで問題発生。おそらく全日本人が欧州で困るであろうカギはあるけどカギの開け方はわからないという問題が発生。ガチャガチャやってると中からフロリアン君が出てきて助けてくれた。欧州式のカギってさっぱり原理がわからない。なにしろ外から開けるときドアノブを回したりしないのだ。ホテル生活でカードキーに慣らされた私はこの記事を書いている入寮3日目まで毎回携帯でチェコでのカギの開け方というサイトを見ながら開錠している。それぐらい難しいというよりは私のセンスのなさだと思うが。

とにかく一番苦戦したのがカギ。午前中授業を受け、引っ越しして、カギに苦戦しているうちにすっかり夕方になってしまった。おまけに外は雪が降って気温は氷点下近くまで下がっていたので、これから町まで出てシーツと毛布を買いに行く元気はなかった。また、お店も営業終了時間間近であった。

そうして私は先ほど買ってきたパンとハムとチーズでサンドウィッチを作ったのだが、自炊なのにまずいという怪現象に見舞われた。おそらく原因はハム。そのハムが形容しがたい保存料か何かの匂いがするものだから、全ての味がその保存料だが着色料の味に支配されてしまう。ただ、朝から何も食べていなかったので何とか飲み込むんで腹に詰めた。

自室でスーツケースを開いて荷ほどきしているとフロリアン君が、20:30からひとつ下のフロアでパーティーがあるから来ないかと声を掛けてくれる。ある人の誕生日パーティで、その人は日本語も喋れるという。結構疲れてはいたが、ただ酒が飲めると聞いては行かない手はない。私は快諾した。

下のフロアにはドイツ人の男女が10人ほどいて、完全アウェイな雰囲気の中に放り出された。誕生日だというのがカリナさんという女性で、彼女は1年日本にいて、国際系のガールズバーで働いていた経歴の持ち主で流暢な日本語を話す。それからもうひとりの男性が、日本語を喋れる人がいて、困ってないかちょくちょく声を掛けてくれた。(名前すら聞いていないっていうね)

チェスにも誘われたのだけれど、ルールをすっかり忘れていてナイトの動きしか覚えていなかったので断った。なんだか会話のチャンスを不意にしたようで残念だった。

そのあと、コースターのような丸いカードを使って遊ぶカードゲームにも誘ってもらった。これなら私でもできそうだ。ルールは至ってシンプルで、場に出ているカードに7~8種類の絵柄が書いてあって、自分の手持ちのカードと同じ絵柄を見つけてコールしながら場に出す。

やはり慣れないゲームは、簡単には勝たせてはもらえない。だが、しばらくして、敗因は単純なリアクションスピードだけでないことに気づいた。カードの絵札ではない面にHPと書いてあることをずっと無視していたが、これはヒューレットパッカードの略ではなくハリーポッターのことだったのだ。どおりで見てコールしてる絵柄の名前がやけに聞き覚えのある単語だったことに符号が一致した。なるほどハリーポッターはこちらでは一般教養なのか。街で見かけた単語に片っ端「とアズカバンの囚人」とサブタイトルを付けて遊んでいた人間とは習熟度が違う。こんなところでカルチャーショックを受けるとは以外だった。

ゲームが終わると、それからまたしばらくは参加者がそれぞれに話していて、ときどきフロリアン君が会話の内容を英訳してくれるのが忍びなかった。隣で高速でドイツ語が飛び交っているのを単語レベルでしか拾えないのが、初めて悔しいと思った。仕方なく「No.1」というバーテン州で主に流通しているビールをとめどなく飲んでいた。

パーティーの目的であるカリナさんの誕生日ケーキが運ばれてくると、ハッピーバースデーの歌をみんなで歌った。この歌は世界共通で、歌詞も英語のまま。なるほどこの歌は一緒なのねと感心する。ひと段落するとまたぽつぽつと英語で話したりはするけど馴染めはしない。ドイツ語で話すのが楽だろうに、ひとりだけの日本人の私のために英語で話すのは面倒だろうなと思った。

ひとりだけ浮いてるな、などと思いながら飲んでいると前方で緑髪の男性が怪しげな物体を取り出し始めている。「それはなんだい」と聞くと「マリファナだよ」と見せてもらった。どうやらドイツではいまマリファナは合法化への動きがあるようで、取り締まりも緩いとか緩くないとか。予想通りではあったけど、初めて見るとびっくりするもの。

そんなこんなをしていると大量の紙コップにビールが少量ずつ注がれて、何やらゲームが始まるというので参戦。ルールは3回ぐらい説明してもらったけど、結局あんまりわからないままスタート。手持ちの空のカップにピンポン玉を入れることができたら次の人にパス。2つのピンポン玉とカップが車座になっている人の間をぐるぐる回り、後ろのカップに追い付かれたら飲む。飲んだらカップを重ねる。逃げる側のカップはどんどん高くなってピンポン玉を入れるのが難しくなっていく。

やってみた結果としては、ピンポン玉入れるの下手すぎて、めちゃくちゃ飲まされた。けど、なんか飲みまくったものだから、よくわからないけど認めてもらったような雰囲気が出始めた。酒の席は世界共通だなと思う反面、飲んだだけで認めてもらえるという謎の因果律は不思議だった。とにかく、このゲームを境に何かが加速し始めた。

そのあとは音楽をかけてエンジョイする時間になる。誰かが躍り出すと酒が回った私も出鱈目に踊る。そっからはよくわからなかった。とにかくダンスしまくって、してないときは英語で色々聞かれる。日本のパーティーとどっちがいいか。クラブは好きか。カロウシがなんで起きるのか教えてくれ。等々。

ラムコークなんかもいただいて、だいぶ限界まで酔ったので、夜中深くにお暇した。部屋に帰るとベッドには薄汚いマットがむき出しだったが、バスタオルをひいてパタゴニアの一番暖かいジャケットを毛布代わりにして寝た。足か胴しか隠せなかったので、なぜか足を隠して寝た。普段だったら寝付くのも大変なシチュエーションだったけど、泥酔していたのですぐ眠りに落ちた。

翌朝、起きてから中心地にあるデパートのようなところで寝具一式を少し高いけれど買った。これで落ち着いて寝ることができる。とりあえず今日のところはここまで。








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