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「どちらの黒が、怖いだろうか」

前作”『三茶のポスターガイスト』の来場者特典が〇〇だった話”で、大國魂神社で憑き物の黒い狐を落とした話をしたが、このエピソードも吐き気がするくらい怖いので、noteで公開することにした。


私が30代の頃、派遣社員として、とある広告関連ベンチャー企業で働くことになった。立ち上げから数年しか経っていない生まれたての会社で、従業員のうち、社員は男性ばかりで8名。うち半分が役職付き。女性の派遣社員は先月辞めたばかり。残りはインターン生の女子大生1人であった。

私はエンジニアのポジションで就業したのだが、働いて数日もしないうちに、取締役 経理部長 が「電話を取るのは、女の仕事だ」と、就業条件明示書に記載のない作業を押し付けてきた。派遣社員にはに記載のない仕事はさせてはいけないのは、派遣法、労働契約法などで定められている。就業前にも電話番をすることは聞いておらず、専門職に専任する内容で契約を結んでいる。かかってくる電話のほとんどは営業部への取次だ。「総務 と 営業」の仕事をやるなんて聞いてない!
「知らなければ労働法を破ってもいい」と思っている会社は少なからずあるが、このベンチャー企業も、そんな会社であった。

広告配信のための機材の設定とテストの仕方をレクチャーするのは、冴えない小太りの中年男性社員だった。「あーあ、君の前、このポジションは20代の女の子だったんだよー。」などとボヤき、女の子とのツーショット写真を見せてきて、ニヤニヤしていた。きっと、その子は、このおっさんが気持ち悪くて、辞めたんだろうなあ・・・。
その後は、マニュアルもなく、口頭でやる気なく説明するものだから、メモを取るのが一苦労だった。結局は、その社員のやる気が無さすぎて、教えられた業務を実施することはなかった。

翌日から広告動画を流す機器の動作確認と、モニターの不具合をチェックする作業が始まった。
映像はサンプルを使うのだが、最初のうちは自然の風景など無難な映像が配信されていたが、やがて、女性のストリップ映像が続くようになった。腰を振りながら、服を脱いでいく女性の映像が延々と続く。
・・・終わりがない。

製作者が男だらけだからか?
就業中に堂々とAVを見る言い訳なわけ?
男だらけのオフィスで、ただ一人、女の私が「サンプルのストリップ映像で、映像チェックをさせられる」という異常事態。
セクハラって、こういうことだよな・・・。
しかし、映像は通信で配信されているため変更出来ないらしく(真偽は定かでは無い)、何時間もストリップショーを見せられる羽目に。
最初は驚きの感情が強かった私も、数時間するにつれ、なんだか涙が溢れてきた。
その日は定時で仕事を終えたが、しばらくはショックで頭がボーッとしていたので、ため息を何度も深々とつきながら、濃いめのチューハイを飲んで駅横のベンチで放心して座っていた。
・・・気がつくと1時間経っていたので驚いた。

翌日出社すると「定時後、スケジュールの空いている日はあるか?」と取締役 営業部長の男性に聞かれた。週明けに、私の歓迎会という名目で飲み会をするらしい。歓迎会ならば主役は出ないわけにもいかない。参加したくはなかったが、付き合いなので、半ば強制的に出ることなった。
しかし冷遇のくせに、何故に歓迎会など、わざわざ開催するのだろうか?

・・・その謎は、すぐに解けた。

歓迎会は、会社近くの個室居酒屋で行われた。
歓迎会(?)の挨拶も何もなく、始まるなり
「うーん、この面々では、つまらんな」
と男たちが言い始めた。
「?」
例の不潔な小太り男がインターンの女子大生の横に座ったかと思うと、急に生き生きとし出して、こんな催促を始めた。
「友達たくさん呼んでよ〜!奢るからさー。あ、男はダメだよ。女の子だけー!」
インターン生の女子大生は友達を誘ったものの、皆、アルバイトが忙しくて来れないという。小太りの男は、あからさまにガッカリした。
取締役 営業部長の男性が連絡したのか、会社とは全く関係のない、綺麗めな女性が急遽参加することになった。20分もしないうちに到着するとか、凄い気合の入りよう。隣で聞こえてくる会話からすると、どう見ても"愛人関係"のようなのだ。ホステスの独立を支える、パトロンの関係?

「ああ、そうか!これは歓迎会にかこつけて、ただの安あがりのキャバクラをやりたかっただけなのだ!」
なるほど!合点がいったが、私は一刻も早く帰りたい!
通常、会社の飲み会は最後までいる派の私だが、歓迎会の最中に早退したのは、これが最初で最後だった。

業務内容もガッカリの域を遥かに超えていたが、飲みニケーションすら崩壊しており、これは頭が追いつかない。

帰りの電車で、ふと携帯を見ると、女友達からメールが来ていた。
「近くで働いているんだ。明日ファミレスで食事しない?」という嬉しいお誘いだ!
頑張って明日も出社しよう、と気合を入れた。

翌日も朝から、男だらけの職場でストリップ映像を使った映像チェック作業を延々とやらされていた。

一瞬、映像が途切れた!
「とうとう終わったか!次の映像は草原とかオーロラの景色だといいなあ」
全力で心から願った次の瞬間、私の目の前には「ヌーディスト ビーチ」の光景が広がっていた・・・。

ああ、インターン生の女子大生でもいてくれれば、少しは心が落ち着くのだが、その子は週2日しか出社しないため、心細さを抱えながら男だらけのオフィスで、エロ映像を見続けるという重圧に耐え続けた。

その晩は、久々に再開した友達と、楽しくファミレスでおしゃべりしようとワクワクしていたのだが、なんと、友達の顔を見るなり、悲しくないのに目から涙が止まらなくなった。えー?おかしいなあ、私、号泣している?
どうやら、友達と会ってホッとしたため、無意識のうちに涙が止まらなくなってしまったようだ。
20分間、涙が出続けたが、友達は「ストレス反応かも〜。泣いてていいよ。無理しすぎだよ。」と励ましてくれた。
余計に泣ける。。。

そうか、これがストレス反応かあ。鬱とかの前兆だったよな、こういうの。
「一刻も早く、異常な環境(会社)から抜け出そう」と心に決めた。

翌日ランチを終えた後、会社のビルの裏手に、新しくて小綺麗だが、閑散とした、小さな稲荷神社を見つけた。
なんとなく通りがかったので、その稲荷神社に参拝した。
すると、その日の帰宅後、頭の中が「テレビの砂嵐映像がゴーっと吹き荒れて止まない」感じになった。日に日にその感じが強くなり、体も痺れてきた。
霊視してみると、ドーベルマンくらいの大きさの"漆黒の狐"の動物霊が憑いてきたようだ。
後から知ったのだが、稲荷神社の周辺は、再開発に失敗し、呪われていると悪い噂が立っていた有名な地帯であった。検索してもGoogleからはネガティブワードが見事に消されているが、一昔前は悪い噂をよく聞いたものだった。ちなみに、その稲荷神社はGoogleマップやYahoo!マップにも出てこないし、神社庁にも登録がない。荼吉尼天を祀る小さな社で、もしかするとその地の因縁を鎮めるために、新しく建てたものなのかもしれない。
精神的に弱っていた私が参拝をしたため、憑依されてしまったようだ。
こんな事、生まれて初めて経験した。

仕事は相変わらず、男だらけのオフィスでAVまがいの映像を延々とを見せられ続けていた。加えて頭も体も、鳴り止まない砂嵐と軽度な痺れで、パニックな状態が続いていた。

さすがに、もう限界だ!
派遣会社の担当に電話で「連日、配信動画チェック作業でエロ映像を見せられて気が狂いそうだ。セクハラだ。異常な会社だ」とSOSを出した。酷かった"歓迎会"の話もした。
翌日、派遣会社の営業マンが来て、代表取締役社長に話をつけてくれた。社長は何が悪かったのか分からず「それは残念だ。しかし、何故、うちの会社には女性社員が定着しないんだろう。何が原因なのか?」と、納得がいかない様子だった。

最初の派遣契約は、試用期間の1ヶ月。派遣会社に迷惑はかけまいと、頑張って最終日まで出社した。最後は気の利いた挨拶の言葉も出てこず「お世話になりました」と一言言って、時間が来たら、とっとと逃げた。

あーーー、明日から、もう長時間エロ動画見なくて済むんだ!解放された!!!
心が晴れて、世界が色と明るさを取り戻した気分になった。

が、まだ、いる!なんとかしなくちゃいけない奴が、まだいるのだ!

次の仕事が見つかる前に、黒い狐を落とさねばならない。
そこで、武蔵國総社 大國魂神社が凄いパワースポットと聞きつけ、参拝することにした。
正式なご祈祷は受けずに、お賽銭を入れて参拝しただけである。
帰り道の参道で、突然、ストーンと何かが落ちる感じがした。
鳥居を抜け出ると、頭のザワザワがすっかり止んでいた。
黒い狐は、素直に落ちてくれたようだ。
これで一安心だ!その後は何も起きなくなり、私の心身も安定した。

20日間働いてしまったブラックベンチャー企業からは逃れられたものの、トラウマが癒えるまで、しばらくは怖くて就業ができなかった。
ああ、5日くらいで辞めればよかった。
今後は契約を守るより、心を守ろう。

さて、
真っ黒なブラック企業と、真っ黒な狐
「どちらの黒が、怖いだろうか?」




~ 後日談 ~
セクハラとモラハラのオンパレードのブラック企業はその後どうなったかというと、なんとバチが当たったかのように、五輪に賭けた一大事業に失敗したのである!東京オリンピックで一攫千金を企んでいた軽率な会社だったが、東京オリンピックはコロナのために、地味に開催された。見込んでいた外国人観光客も来ず、広告事業でガッポガッポ稼ぐ計画は、泡と消えた。

無力だった30代の私。
この頃はパワハラ・セクハラという言葉が、まだ定着しておらず、パワハラ防止法などもなかった。
※「パワハラ防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)」は、2020年6月に施行された。
SNSで拡散・炎上なども、今ほど盛り上がらず、メディアで派手に取り上げられることも殆どなかった。
この会社の前の就業先も『表向きは社内のヘルプデスク、実態は昼キャバクラ』という部署が派遣先の社内にあり、私の隣にいた20代の美人な女性社員が鬱になり、毎日のように私に涙目で弱音を吐いていた。私は派遣社員なので、気持ちが悪いそんな部署からはとっとと撤退したが、鬱になりかけていた女性社員は「派遣の人は、ここから抜け出せるからいいですね。私はいつまで、ここにいなくちゃいけないのかな・・・。」と毎日言っていたけど、3年は頑張らなくちゃいけないと思ったのか、とうとう辞める決断はしなかった。その後、彼女がどうなったのかは、わからない。

酷い時代だった。

こうしたハラスメント 企業から、最悪な思い出と、教訓と復讐心を得た私は、数年後、個人で入れる合同労働組合に加入し、セクハラやパワハラ撲滅のために団体交渉に積極的に参加し始めた。
やがて、ゼロ・トレランスの鬼と化し、労働争議で数百万円を勝ち取るまでに、強くなったのであった。

それはまた別のお話。

不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。