その温もりに用がある

慣れない土地で、電車の乗り換えのために白杖を手に歩いていた時のことです。僕は進むべき方向が分からなくなり、一人立ち往生していました。


その時そばで、

「Tasuketai」

と男性の声がしました。

声の方に目をやると、そこにいたのは中年のカナダ人男性(のちに判明)でした。

「Doko?Tasukeru」と彼。

「サンキュー」と答え、「◯◯ステーション」と伝えてみます。

「◯◯?」

どうやら彼はその駅を知らない様子。そして日本語はほとんど話せない様子。

慣れない英語での会話が始まります。しかし僕の頭にあるのは、ここで◯◯駅を知らない程度の土地勘なのに、日本語ほとんどできないのに、よくまあ助けたいと声をかけてくれたもんだなってことです。

彼は、看板を探すから大丈夫みたいなことを言って僕の肘をもって歩き出します。

歩きながら話をしていると、彼はカナダ人で、日本が大好きだという。なぜ?とありきたりだけど興味深かく、かつほとんど英語力をを要しない質問をしてみます。

「日本人は親切で優しい。」と屈託のない笑顔で彼は答えます。

緊張が解けました。

「今日僕を助けてくれた親切で優しい人はカナダ人だったね。」といってみると、彼は照れながら声をあげて笑います。

そして、「日本人はシャイだけど、必要な時は助けてくれる。」と笑顔のまま話してくれました。

道中、少しは見えていることや、お互いの仕事のことなどを話しながら歩を進めます。

「盲目の人は他の感覚がするどくなるって聞いたことがあるけどどうなの?」と彼が尋ねるので、

「その通り。あなたが昨日女性と一緒だったことも匂いで分かる」といってみると「まじかよ?な、ジョークだよな?」と言っていたのであながちです。

そんな話をしながら、結局一度の案内ミス(違う駅にいってしまった)を経て目的地に到着しました。

彼は「うまく案内できなかったな」といいました。

僕は、「声をかけてくれてありがとう」といいました。

そして改札越しに握手して別れました。

目的地に到着できたこと以上に、声をかけてくれたこと自体が嬉しい。わずかでも交流があったことが嬉しい。

人間、そんなもんだと思います。

そんなもんだから、僕はニヤニヤを噛み殺して電車に揺られていたんだと思います。

☆PEACE☆


白杖をもつ人を見かけたときに、声をかけるかどうか迷う方も少なくないと思います。こんなページもあるのでよければ目を通してみてください。

目の不自由な人の誘導方法

(あまり深く考えなくて大丈夫なので参考程度に)


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