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彼に腕時計をプレゼントするならこんなサプライズはどうでしょうか

成功するサプライズって、どんなものだろう?

いや、これは日本語がおかしい。

こういうサプライズ演出なら必ず成功しますよ、というものはないからだ。

それこそ仕掛けた側が想定していないことが起こって、こっちがサプライズしちゃうことだってある。

昔、男性を落とし穴に落とすテレビ番組の企画で、仕掛け人の女性がどういうわけか誤って自分が落ちてしまった瞬間を見たことがある。

こちらも驚いたが、落ちた本人も何が起こったのかわからないという顔で半べそ状態になっていた。
それはそうだろう。テレビ局が大金をかけたであろう企画は大失敗だ。
いや、あれはあれで面白かったから、ある意味成功だったのかもしれないが。

つまりサプライズって、どんなに綿密な準備をしても、どんなにお金をかけても、相手の思わぬ行動や、周囲の状況によって、必ずしもうまくいくとは限らない。

だからこそおもしろい、とも言える。

大好きな人を喜ばせたい、と思ったことのない人はいないと思う。
特に恋をしている時、多くの人が経験したことだろう。
「喜ばせる」の一環で、サプライズ演出をする人は多い。

今日はひとつ、私が実践した、彼氏へのサプライズ演出を紹介しよう。

落とし穴みたいに自爆することはないにしても、これもなかなかに気を使う仕掛けで、成功確率は5分5分といったところではないかと思う。
彼の性質にもよるので、チャレンジは自己責任でお願いする。

スリルと達成感を味わいたい人には、おすすめのサプライズだ。

あなたに彼氏彼女がいたとして、お誕生日にプレゼントをもらうとしたら、チョイスは相手にお任せ派だろうか、それとも、欲しいものをリクエストして買ってもらう派だろうか。

10数年前に付き合っていたその彼とは、お互いに意見が一致して、欲しいものをリクエストして買ってもらうという約束になっていた。

ちょうど3年付き合ったのだが、3回巡ってきたお誕生日にあげたもの。
TUMIのビジネスバッグ
グレースコンチネンタルの靴
限定モデルのG-SHOCK

「私があなたにあげたもの」という歌詞の歌ができそうだ。

正直なところ順番はおぼえていないが、これは、G-SHOCKをプレゼントした年のお話だ。

さてあなたなら、リクエストされたG-SHOCK、当日はどのようにプレゼントするだろうか?

大好きな人は喜ばせたい。そのためにサプライズ演出をしたい。
「もの」でサプライズができないのなら、「渡し方」でサプライズしようと私は考えた。
どんな渡し方なら、驚いて、喜んでくれるだろうか。

誕生日の数日前から、ああでもないこうでもないと頭を悩ませ、あるアイデアが浮かんだ。

そうだ! 寝ている彼の腕にG-SHOCKをはめよう!
目が覚めた時、きっと大喜びしてくれる。

「わお! 欲しかったG-SHOCKじゃん。ありがとう、なな!」
そう言って彼はベッドの中で私をぎゅっと抱きしめるだろう。
驚いて飛び起きるかもしれない。
朝から大声を上げて近所迷惑になるかも……

喜ぶ彼のいろいろなシーンを脳内シミュレーションしてにやついていた。

当時半同棲していた彼とは同じベッドで寝ていたのだが、幸いなことに、私が壁側だった。
ベッドに行く時間はそれぞれで違ったので、「先にベッド行ってるね」と言って、箱から出して裸にした状態のG-SHOCKをベッドと壁の間に滑り込ませて眠りについた。

自分の枕の下にバイブレーションにしたスマホを置いて、私だけが先に起きられるようにセット。

お気づきだと思うが、この作戦は、私より彼が先に起きたりした日にはそこでジ・エンドだ。
当然ながら、装着途中に彼が目を覚ましても即終了。

ご存じの通り、G-SHOCKは輪っかになっているタイプじゃない方の腕時計だ。

想像してみてほしい。
あのタイプの腕時計を、寝ているけど時々動く人間に、そうっとはめるのは、なかなかの難行だと思っていただけるだろう。

私自身、想像したはずだ。

シミュレーションしたはずなのだ。

恋する女の脳内シミュレーションなんて、相当自分都合のお気楽妄想だったということに気づかされた。よく考えたら、成功バージョンしかシミュレーションしてなかった!

が、時すでに遅し。

ここまで来たら、やるしかない。

起きないで! 動かないで! と心の中で願いながら、最大の難所、小さな穴に金具を入れるところをクリアし、ベルト止めにベルトを通すところまで完遂した。

あの達成感。

あのミッションをやり遂げた者しか味わえないスリルと感動。

休日の朝のベッドで、私は一人、やり遂げた悦びに酔いしれていた。

それも束の間、腕時計を腕にはめるという最大ミッションを達成してしまうと、今度は彼が目を覚まさないことにいら立ち始める。

恋する女は勝手だ。

いや、なにしろ、彼の喜ぶ顔が早く見たいのだ。
「ありがとう!」と言って抱きしめてほしいのだ。

いつもの休日なら、先にベッドを抜け出して朝食の支度をするのだが、今日はそんなわけにはいかない。
喜ぶ彼の顔を間近で見たいのだから。

待つこと、1時間くらいはあったと思う。

寝ぼけている彼が、珍しく腕枕をしようとしてきた。
腕枕、それが吉と出るか凶と出るか、その時の私はわからなかったが、流れにまかせて彼の腕に頭を乗せてみた。

また長期戦か、と思ったその時、彼がおもむろに「ん?」と声を出した。

どうやら、左手首に違和感を感じたらしい。

来た!

彼は、私の頭を乗せたまま左腕を曲げ、ついにG-SHOCKを視界に入れた。自分がリクエストしたG-SHOCKだということに気づいたことだろう。

が、しかし、彼は大声を上げなかった。

飛び起きもしなかった。

あろうことか、再び静かに、目を閉じたのだ。

えーーー!
心の中で絶叫しながら、私は思い出していた。

そうだ、この人めっちゃ寝起き悪いんだった……

勝手な脳内シミュレーションと違いすぎる現実に、朝日の中で泣き出しそうになっていた。
このサプライズを思いついた時に小躍りしそうになった自分が情けなかった。
作戦は失敗だったか、と思ったその時。

彼が、目を閉じたままゆっくりと、半身をかぶせて私を包み込んだ。

「ありがとう」

まだ眠そうな声で、私の耳元で言って、ちょっとだけ腕に力を込めてくれた。

シミュレーションとはだいぶ違うけど、上出来だよね。
と、泣き笑いしながら、恋する女は幸せを噛みしめたのでした。

こんなサプライズ、いかがでしょう。
5分5分だけど、お試しあれ。








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