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[73]冬の境界 三句

水仙のささやき香る風緩む

蝋梅に鼻つままれて空開く

手を伸ばす冬木の梢陽に透ける


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手袋をはめマフラーをきっちりと巻く。
そうだ、耳まで隠れるニット帽も忘れずに。
真冬の散歩は準備に時間が必要だ。
ドアを開ければ強い季節風が吹きつける。
思わず首をすくめる。
体が表情が強張る。
気合いを入れて風をかき分けるように歩きはじめる。
そんなふうに意気込んで歩き始めたのだが、
なにやら少し空回りしているような気がする。

いつもより呼吸が楽なのだ。
風は強いが、微かに潤いを感じる。
浅かった呼吸が緩む。
僅かに風に混じる香りに気付く。
懐かしくも新鮮なその香りを辿って
道沿いの民家の庭先に目をやると、
石が寄せられた白々と乾燥した一隅に
水仙が並んで瑞々しく咲いていた。
楽し気にささやき合うように、
微笑みながら揺れている。

まだ真冬だと思い込んだ私が
俯いて必死に風をかき分け続けているうちに、
季節は着々と移ってゆく。
なんだか私もおかしくなって、
フッと小さく吹きだす。

すると更に別の香が鼻先をなでる。
誘われて顔をあげると、
枯れているのだと思っていた枝に、
蝋梅が咲いている。
その梢の向こうには、
ほんの少し色が柔らかくなった
冬晴れの空がおおらかに広がる。

気道が開き空気がゆっくりと抜けていく。
首の後ろ側から肩甲骨にかけて、
久しぶりの解放感を感じる。
頑なに足元ばかり見て歩いていたことに気付く。
蝋梅の香に鼻先をつまみ上げられ、
空を見上げさせられたような気がした。

見上げた空のその先には、
冬枯れの街路樹が見える。
白い骨のようだった冬枯れの梢も、
陽に透けて輝き、
秘めた芽吹きの生命力感じる。

水仙が笑っている。
蝋梅の香に鼻先をつままれたまま、
街路樹の梢の潤いと
微かに軟らかくなった空の青さを眺める。

今日はなんだか呼吸が楽だ。
私は冬と春の境界にいた。

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