【超短小説】うちの猫はしゃべりたがっている【500文字以下】
うちには猫がいる。
妹が知り合いのおばちゃんからもらってきた猫だ。
うちに来たときはとても小さな子猫だった。
それから15年経ち、今ではお腹の皮膚がたるんで地面につきそうになっている、おばあちゃん猫だ。
15年の間に妹は結婚し、もうこの家にはいない。
やっとのことで就職をした弟は、一人暮らしを始めた。
最初はあまり関心が無い素振りをみせていた母は、今では猫を溺愛している。
定年退職をした父の膝の上に乗って眠りにつく猫。
俺は誰もいないところで猫に語りかける。
もうしゃべってもいいんだぞ?
今さらお前がしゃべっても家族は驚かないぞ?
妹に、結婚おめでとうって。
弟に、就職おめでとうって。
父に、定年お疲れさまって。
母に、いつも、ありがとうって。
全部お前がしゃべっていいんだぞ?
俺が言えなかったことを。
「それは君からいいなよ」
うちの猫はしゃべりたがっている。
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