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【連載小説】金をする男と愛をはく女【第二十話】

第二十話 明日くる未来へ、前を進めば、夢は叶う 。

 一息遅れで飛び出した俺の目に飛び込んできたのは、電柱に隠れていた見知らぬ男が淳平じゅんぺいさんに押し倒されている場面だった。
俺も淳平じゅんぺいさんに加勢する。

「これはどういうことですか?」

男を押さえながらも、疑問は拭われない。

「放してください!僕が何をしたっていうんですか?!」

男は抵抗するが、淳平じゅんぺいさんは鬼気迫る顔で力を緩めることはない。俺はさっきのこともあり、何がなんだかわからなかったが、淳平じゅんぺいさんが促す目線の先に見えたナイフが俺に警告を出した。
二人がかりの力に降参したのか男は抵抗を止めた。

「すいません…勘弁してください…」

部屋に残っていた三人もぞろぞろ出てきた。

「どうしたの?…って優太?」

取り押さえられている男にすすめが反応する。

「知り合いですか?」

俺は取り押さえつつすすめに聞き返す。落ちていたナイフをかなうはハンカチでくるんで拾い上げた。

「えぇ、知り合い…」

淳平じゅんぺいさんが他に武器や怪しいものがないかとボディチェックを一通りすますと、かなうが話だした。

「やはり現れましたデスネ」

この男はすすめの元彼らしく、別れてから今日まで連絡を取ることはなくこんな形で再会することになってしまった。

「優太…なんで…」

すすめの提案でひとまず部屋に戻り話を聞くことになった。

「結局ストーカーは実在したが、狙われていたのは美来みらいではなくすすめさんだったってことなのか?」

淳平じゅんぺいが話を始める。すすめ美来みらいも訳が解らないといった顔をしていた。そんな中、かなうが淡々と説明しだす。

「掲示板の画像をアップしていたのはあたしデス、けど実はその中にはあたしがアップしていないものもあったんデス」

「ああ、そうなのか?」

「あたしはアップしてる本人デスのですぐ気付きましたデス。と、同時にある共通点にも気付いたのデス」

「共通点?」

「それは画像は美来みらいの個人的なものだったんデスが、文章にすすめが出てくるものだけだったんデス」

「最初はあたしと似たような推しの方が真似してると思い、あたしだけが推し活動をするのを悪いと思い様子を見ていたのデスが、すすめの話題がないやつは一切アップしなかったので違和感を感じたデス」

推し活動の善し悪しはわからないが、確かにすすめを推すには大分回りくどいやり方だなとは思った。

「それで少しずつ美来みらいすすめの情報をSNSで発信していましたデス」

「じゃああの匂わせの発信は…?」

「あたしなりのふるい分けというか線引きデス」

「ただのストーカーやちょっと行き過ぎのファンへの忠告デス」

「掲示板の話題が収まってからもあたしはSNSにはあえて雀の話題があるのと無いのを交互に発信していましたデス」

「それでも続いていた?」

「はいデス」

「あたし的にアップ主はただの推しではないと思ったデス。これはダークサイドの匂いがするとデス」

個性的なしゃべり方だったが何故か説得力を感じる内容だった。

「僕はただ歩実を!……すすめを守ろうと…」

歩実はすすめの本名みたいだ。男の主張はどうであろうと本物のナイフを持っていたという事実に同情の余地はない。

「あたしの誤算はそこだったデス…彼はもう一人のストーカーを作りだしてしまったデス」

「それが美来みらいの実在しないストーカー?」

「そうデス…そしてタイミングが悪いことにメジャーデビューの噂…しかもソロという…」

「きっと彼はこう考えたデス…」

「そうだよ!美来みらいのストーカーがもたもたしてるから俺が代わりに美来みらいを排除してやろうって!そうすれば雀がメジャーデビューできるって…」

俺には男の言っていることが支離滅裂すぎて共感できるはずもなく、百歩でも千歩でも譲ったとしても意味不明の動機だった。

「ああ、君の言ってることは君の中ではすすめさんのことを思ってのことなのかも知れないが、そんな思想ははっきり言って間違っている。警察を呼ぶよ」

淳平じゅんぺいが座っていた男を押さえ込んでいる腕の力を一瞬緩めた時だった。

「いっ」

淳平じゅんぺいは太腿を押さえてその場に崩れ落ちた。男は指輪型のナイフのような物を拳の中に隠しており、その刃が淳平じゅんぺいの太腿に突き刺さったのだ。今回は滲み出る血がはっきりと解る。

「なんだかんだ言ってるけどな!結局はお前のせいじゃねぇかよ!かなうだっけ?!三人の中じゃお前が一番ブスだしなぁ!」

男はそういいながらキッチンに向かうと包丁を取り出した。

「やめろ!」

男は俺の言葉に怯む様子はなく、逆に男が出す強烈な狂気に俺達は動けなかった。

「さっきから推しだのなんだの言ってるけどよぉ!お前の言ってることは一個も合ってねぇよ!俺はただ俺を裏切ったくそ女に復讐してやろうと思っただけだよ!」

男は本性を現したのか口調は荒くなり、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。

「落ち着くデス」

かなうの特徴的な声とイントネーションが緊張の糸をプツンと切ったかのように感じた。

「その声もムカつくんだよなぁ!!」

包丁を持った手を突き出し、かなうを目掛けて突っ込んでいく。咄嗟に俺はかなうの前に立つが、かなうは俺を突き飛ばした。

バチッ

火花が散るような音がした。俺は情けないことにかなうを庇ったつもりが逆にはね除けられて頭でも打ったのか?

ばたっ

何か倒れる音がする。恐る恐る確認すると、襲いかかった男が倒れていた。

「大丈夫デス」

俺は安堵に包まれた。

「どうなったんだ?」

「さんだーすてぃっくデス」

かなうは自撮り棒のような物を持っていた。スイッチを入れると肉眼でも解るぐらいバチバチと電流が流れているのがわかる。

「エグいな…」

「最近の女の子は当たり前のように持参してるデス」

俺の知らない世界がまた一つ増えてしまった。
その後は男を縛り上げ、警察と救急車の到着待っていた。意識の戻った男はがんじがらめに縛れているのに気付き抵抗は一切しなかったが、俺に一言呟いた。

「よく見たら…お前…まぁ運が良かったな」

男が呟いた一言の意味が解ったのは数日が経ったころだった。

怒涛のストーカー撃退事件から数日がたち解ったことが多々あった。捕まった男は色々とヤバイやつだったらしくあの事件が起こる前から、傷害や窃盗などで警察から追われていたらしい。悟の家で色々と振り返っていた。

「そういやイチローあの犯人になんか言われてなかったか?」

「あー、なんか俺のこと知ってるような素振りで…運がよかったとか…」

「はぁ?どういう意味だ?」

「さぁ?そういやあの日悟電話してたよな?あの状況でよく電話できたな」

「あーあれな、あれは橋本からだったんだよ」

「橋本って?あー、入院してた?俺話しかけちゃったけど実は起きてたとか?」

俺が笑いながら話すと、悟はばつが悪そうな顔をしながら答えた。

「いや、それがその日はもう退院しててもう病院にはいなかったって…」

「えっ?」

一瞬止まった時を戻すかのようにテレビからニュースが流れる。

「今月未明に起こったアイドルストーカー傷害事件の犯人の新たな余罪が判明しました。少なくとも二件の殺人事件に関与していたと……橋本 優太容疑者は入院していた病院から脱走し…」

「おい…これって…」

「まさか…ね…」

真相はわからないが、とりあえず俺は運がいいみたいだ。それともう一つ後日談になるんだが、最年長だとすすめさんは言っていたが、かなうさんが最年長だということがわかり衝撃が走ったのは俺達だけの秘密ということになった。

続く

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