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【連載小説】金をする男と愛をはく女【第二話】

第二話 哀川 華子あいかわ はなこという女

 20歳になった俺は企業することになる。きっかけは哀川 華子あいかわ はなこという家出女だった。

 企業と言っても形だけみたいなもので社員は俺と華子の二人だ。

 高校を卒業した俺はアルバイトをしながらネットで物販をしたり、動画作成をしたりと、あの100万円を元手に色々と自分でやっていた。

 そんなある日の帰り道だった。アルバイト先の居酒屋を出て駅に向かっていると道端にうずくまっている女がいた。その女は通路に背を向けてギターケースの中に顔を埋めていた。

 俺はその女を知っている。というか毎週ここでギターを弾いている女という認識だけだが。

 横目で見ながら一歩、二歩その道を通ろうとしたときだった。

「おぇーー、うぉぇーー」

 その小柄で華奢な体から出たものとは思えない声を発していた。

「あのー大丈夫っすか?」

 俺は少し立ち止まって顔は向けず横目で話かけた。

 すると女はスッと立ち上がって背を向けたままチラッとこっちを見る。

「何が?」

 さっきの声とは正反対のとても綺麗な声だったが、氷柱のような冷たくささる感じもした。いつもギターを弾いているだけで声を聴いたのは初めてだった。

「 いや、凄い声だったから 」

 俺は動かず答えた。

「 それだけ? 」

「 あぁ、大丈夫そうなら、別にいいんだけど 」

 女はまたギターケースに顔を埋めていた。

「あ"あ"あーーーー」

 奇声を発する女。

「おい!」

 俺は思わず女の方に体を向け一歩近づく。
すると女はバッと立ち上がり体をこっちに向けた。

「どう思う?」

 対面した女の顔半分は前髪で隠れていたが笑っているように見えた。

「ねぇ、どうおもう?」

 はっ?、めんどさいかまってちゃん女かと内心思った。女のペースに引っ張られることが嫌だった俺は女の顔の前にゆっくりと右手を差し出し、パチンっと指を鳴らした。

「 ロックだねぇ 」

 俺の言葉で時が止まった。
一秒が二秒になるのを忘れてしまったかのように。

「ふふふっ あはははっあっーはは」

 彼女が笑い始めると、ヒラリと一万円札がギターケースに吸い込まれていった。

 あれっ?金のことイメージしてないのに一万出たぞ。ていうかまだ俺出せたんだ。あのとき以来か。

「 君のほうがロックだよ 」

そういいながら彼女は一万円を拾い上げた。

やばい。出すとこ見られたか?暗いしわかんなかったと思うが。一応言い訳しとくか。なんて考えていると。

「 これからご飯食べに行かない?あたしの奢りで」

そういいながら一万円をひらひらさせながらにやにやと笑う彼女。

「えっ、あっ」

彼女の反応に俺が少し戸惑っていると

「なんて嘘、落とした一万円返すよ」

落としたと思ってるんならセーブだな。まぁそれはそれでちょっとカッコ悪いな。

「落としたんじゃねぇよ、奢ってくれよ」

俺が食いぎみに答える。

「そういうことにしといてあげる じゃっ いこっ 」

それが哀川 華子(あいかわ はなこ)との出会いだった。それから華子について少しずつ解っていったことがある。

彼女は家庭環境が良くなく高校を中退して追い出されるように家をでたということ。

将来はシンガーソングライターに成りたいということ。

出会った時の奇行は毎回のことだということ。あの日はたまたま俺のバイトの上がり時間が早かったので初めて目撃したので知らなかった。

あの日以来バイト終わりが早い日は彼女と飯を食いに行く日が増えていった。そう、ただ一緒にご飯を食べ何気ない会話をするだけだったのだが、それが心地良かった。

ある日自分が始めたアパレル物販の販売をどうやって伸ばそうと考えているときにふと思った。モデルに着てもらおうと。それを華子にも頼んでみようと。
なんならファッションショーにもして、歌も歌ってもらおう。どんどんアイデアが湧いてきて、大学生の友達にも声を掛けていた。

もともと、金は刷れるからと思い切って色々やろうと思っていたのがついにきたという感情になってきた。100万円を出した時のドキドキワクワクが蘇ってきた。この時の為にめちゃくちゃバイトしてきたんだから。

華子に俺の企画を伝えると快くモデルを引き受けてくれた。だが、歌は考えさせて欲しいと言われた。

そういえば俺は華子の歌を聴いたことが無かった。

俺は勝手に華子が人を感動させるような歌を歌うと思い込んでいた。路上でギター引くぐらいだから自信があるのだと思っていた。

華子の歌を聴いたことも無いのに。

まずは、華子の歌を聴こうと思った。今までどこでどんな歌を歌っているのか聴いたことも無かったから。

俺は華子に歌を聴かせて欲しいと連絡した。

ピロン♪

「 明日ライブハウス ハバネロ 18時 よろ 」

という返事がきた。路上じゃないんだ。明日なら行けるな。

俺はライブというものに行ったことが無かったので、大学生の友達に頼んでついてきて貰った。
その友達いわくハバネロに出演できるのはなかなか凄いことらしい。特にトリをはれるのはメジャーデビューも近いとも言われていると。

何番目に出るの?と友達に聞かれたのだが、何組も出るものとは知らなかったので聞いてなかった。

順番にどんどん演奏が進んで行く。そして確かに迫力のある生演奏に生歌声に音楽ってこんなに力のあるものだったのかと感じさせられた。

パンフレットを見ながら興奮気味に友達が言った。

「最後のトリ見てみろ!ってお前は知らないか。インディーズパンクロックの頂点だから覚えて帰れよ」

そこには

「 夜露 」

とでっかく記載されていた。「よつゆ」か。確かに名前だけでカッコいいな。

そんなことを思っていると、最後の大トリの番になってしまった。紹介されるや否や物凄い大歓声でこれで歌が聞こえるのかというほどだった。俺の周りのやつらはピョンピョン跳ね回ってるし。

そんな俺の心配をよそに真っ赤な鶏冠頭のボーカルのハイトーンボイスが脳に突き刺さった。
気付いたら俺もピョンピョン飛び跳ねていた。

あっという間にライブは終わってしまった。

華子出てなくね。俺はそう思ったが初めてのライブは衝撃的で大満足だった。秒でよつゆのファンになっていた。

ピロン
「どうだった?楽屋来る?」

華子からだ。やっぱいたのか。てかあいつボーカルじゃなくてギターだったってオチか。でもコネでよつゆさん達に会えるかも。

シュポ
「行くわ どこ?」

ピロン
「東階段降りて 右 よろ」

「華子いるみたいだからちょっと楽屋に顔出してくるわ」

そう友達に伝えると階段を降りていく。

「ちょっ、お前楽屋って、よろしか、」

その友達の声は俺には届いていなかった。

えーと、階段おりて、、右、、よろ
この部屋だな。よろ?
大きくよろと扉に貼り紙が張ってあった。

コンコン
「失礼しまーす入りまーす」

扉を開けるとそこにはさっきの赤い鶏冠頭の神がいた。

「す、すいません ま、間違えました」

慌てて締めようとすると、聞き慣れた声がした。

「イッチー、どした?」

「はっ?」

イッチーとは華子が俺に付けたあだ名だ。
俺が固まっていると、聞き慣れた声の鶏冠頭の神がギターケースを持ってきて俺の目の前に置き、顔を埋めた。

「おぇーー、うぉぇー」

と懐かしい声が響いた。

「どう思う?」

にやにやと聞いてくる。

「ロックだねぇ」

俺はなんとかその一言を絞りだせた。

そこからはいつもの調子に戻っていった。
正直気付かないと思っていたことと、素直に教えても面白くないとも思っていたことでちょっとしたサプライズが成功したことに喜んでいた。

一応ヒントは「よろ」だったみたいだ。俺がバンド名を「よつゆ」と思っていたので全然気付かなかった。

そしてさらに驚いたのが華子以外のメンバーも全員女性だったということ。見た目はかなりパンチの効いたロックンローラーだったので男性と思い込んでいた。今の時代こういう決めつけはよくないな。

飯を食べに行くことになり、そこで歌についてのことを華子が語り出した。

続く

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