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【連載小説】金をする男と愛をはく女【第十六話】

第十六話 互い違いのストーカー


 「オペレーション・スクルド」

俺の耳に装着したブルートゥースイヤフォンから悟から謎の横文字が聞こえる。

「オペレータ、スクライド?どういう意味だ?」

「まぁお前にはわからないか。幸運を祈るってことで」

俺は今、悟とは距離を置き行動している。とりあえずイヤフォンから送られる悟の指示に従うことが俺の任務になっていた。
時刻は午後二時過ぎ。午前のライブが終わり二時間ぐらい経った頃だ

「なぁ、ほんとにこんなところに彼女は来るのか?」

「ああ、高確率で現れると予想している」

悟の話によると、午前中にやるライブはごく稀で日にちは限られており、そのライブ終わりには決まって彼女が訪れている場所があるというのだ。
悟から彼女の私服予想の画像が数パターン送られてくる。いよいよ本当のストーカーに近づいている感じがする。

「俺はお前の思考回路が心配になるよ」

「おい、そろそろ来る頃だ。見逃すなよ!」

俺は正直このまま現れないでくれと思っていたが、その気持ちとは裏腹に彼女は悟の私服予想の五パターン目の格好で俺の視界に入り込んできた。

「マジで来た…」

「よし、そのままついていけ」

「いや、ついていけって…一緒にこの中に入るのか?」

彼女が向かう先は大きな病院だった。俺は幸運なことに病院と関わることが無かったので抵抗感があったのと、何も用事がない健康体の俺が病院に入ったあとどうすればいいのか全く想像が出来なかった。

「大丈夫だ、既に病院に送りこんでいるやつがいる。橋本ってやつが入院しているからお見舞いにきたと言えばいい。」

悟の声から悪意が感じられ俺は一瞬ぞっとした。

「まさか、お前そいつを…」

「ああ、俺が救急車呼んでやった。バイト中に倒れてさ。盲腸だって」

俺は気を取り直して彼女の後から病院へと入っていった。思った以上に近づいてしまっていたが、受付へと行く流れは同じで彼女もどうやらお見舞いに来たみたいだ。
俺も会ったことのない橋本のお見舞いへと向かう。

「おい、イチロー状況は?」

「ああ、今から橋本のとこに向かってる」

「はっ?お前はバカなの?お前橋本知らないだろ?彼女を見失うなよ!」

悟の言葉に確かにとも思ったが、同時にバカなことをやらしてるのはお前だろと俺の脳内センサーをいらっと反応させた。
だが、奇跡的に俺の知らない橋本の病室と彼女が向かった病室は同じだった。一般病室でプレートは二名の名前のみ。

「見失うどころか、超接近中」

「よくやった!」

だが俺は気付いてしまった。このままでは知らない橋本と面を会わせることになる。一体何を話せばいいんだ。そもそも知らない橋本は完全に俺を怪しむだろう。ここまで来てただ呆然と立っているのも変だ。
俺は考えがまとまらないまま知らない橋本のベッドの前まで来ていた。出たとこ勝負だとカーテンをしゃっと開く。

「よう、体調大丈夫か?」

俺は知らない橋本から友達の友達橋本に切り替えていた。ただ、俺の逆方向に顔を向けて寝ている友達の友達橋本からは何の反応も無かった。耳をすますとすーすーと寝息のような音が聞こえる。

「橋本寝てるみたいだ」

「それは好都合だ、彼女の様子は解るか?会話は聞こえる?」

「さすがにカーテンで見えないし、会話もぎりぎり単語がわかるくらいで内容までは…」

病室のネームプレートは名字のみだったが微かに聞こえる声の感じで入院しているのは女性のようだ。

「とりあえず病院を出てからの彼女の尾行優先で頼む」

「ああ…」

悟には不要だと思い聞こえてきた単語は頭の片隅にしまっておいた。
彼女がベッドから離れる気配を感じると、カーテンの開け閉めの音がした。少し間を置いて俺も立ち上がる。

「橋本、お大事に」

彼女が病室を出るの見逃さずに同じ方向へと距離を置きついていく。

「このままついていってどうするんだ?」

「ここからが本番だ」

どうやらストーカーの悟、いやストーカー予備軍の悟によると病院を出てからの彼女の行き先は情報が無いらしく、ここからは本当に尾行する必要があるみたいだ。
そして悟の推測によると、病院を出たあとにストーカーが接触を試みるのではないかと予想している。

「それでストーカーを見分ける方法は?」

「そんなの黒ずくめのグラサン野郎に決まってるだろ」

「……マジか」

そんな丸わかりな怪しいやついないだろと思いつつ、彼女の後を追いかける。
だが、そのときは突然やってきた。彼女の進行方向に止まっていた車から黒ずくめのグラサン野郎が降りてきて彼女に何か話かけている。
ある程度の距離をとっているので会話は聞こえないが何かを言いあっているようだ。

「やばい、マジで現れた」

「なに!?わかった 俺もすぐ向かうからイチローはそいつを逃がすな!」

「マジか…了解」

実際に見る黒ずくめのグラサン野郎は想像以上に恐怖を感じた。たが、実際に彼女は腕を引っ張られ今にも車に乗せられそうになっている。
覚悟を決めた俺は走り出した。

「大丈夫ですか!」

俺は出来るだけ大きな声を出しながら近づいたつもりだったが、グラサン野郎も彼女も驚く様子はなくちらっと俺のほうを見ただけだった。彼女も助けを求める素振りもせずに抵抗している。
俺は二人に恐る恐る距離をつめる。

「あのー…」

今度は普通の声量で話しかけると、グラサン野郎が再度こっちをみる。

「身内の問題なんで、大丈夫です」

グラサン野郎はそういうと彼女のほうに顔を向けたが、再度俺のほうに顔を戻した。

「お前なんで?」

グラサン野郎がそう言った直後だった。

「天誅ーーー!」

そう叫びながら悟がグラサン野郎にタックルを喰らわした。タックルの衝撃でグラサンがぶっ飛びグラサン野郎はただの野郎になり地面へと倒れた。

だが、そいつはグラサン野郎でもなくただの野郎でもなく俺の知っている人物だった。

続く

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