見出し画像

【連載小説】金をする男と愛をはく女【第一話】

第一話 金をする男


ギャンブルにはまって早10年。

俺は生粋のギャンブラーである。パチスロから始まり、競馬や競艇などありとあらゆるギャンブルに手を出してきた。もちろん生涯収支は勝っている。

という設定で今の俺は暮らしている。

その設定は必要あるのかと思うだろうが今の俺にはとても都合の良いことなのだ。

今の俺はどこにでもいるサラリーマン。平凡な家庭に生まれ育ち、山田 一郎(やまだ いちろう)という名を与えられ、特に不自由なくこの30年間生きてきた。

唐突だがごく一般の人達はどのぐらい資産があればいいと思っているのだろう。各々の金銭感覚なのだろうが、きっとそれは自分が何かを成し遂げた先にある対価とそれによって得られる価値のバランスで成り立っているのだろう。

世界にはとんでもない大富豪がいて一般人では想像もしないような世界に住んでいる。そんな世界の成功者に憧れていた時期があった。

小学生の頃、特に秀でた才能もなく、熱中できるものも無かった俺は漠然と大金持ちになりたいと思っていた。

そんな俺に重大な転機が訪れた。

中学生の時に何気なく観ていたテレビの中で世界のセレブ特集のようなものがやっていた。その中に日本人で大きなビジネスに成功した社長がインタビューに答えていた。

そのときに言っていた内容は当時の俺には難しくてわからなかったが、その社長が最後に言っていた言葉が印象的だった。

「資産を増やしたかったらまずお金の勉強をすることだね」

といいながらパチンっと指を鳴らしたのだ。

俺はお金の勉強というワードと指鳴らしが印象強く、一人で真似をしていた。

その時だった。

カサッと何かが床に落ちる気配を感じた。

違和感を感じ目線を下に向けると、

何か紙が落ちていた。

えっ?と思い、それを拾い上げてみると最初にまさかとは思ったが、それは一万円札だった。

部屋は綺麗にしているほうだと思うので床にものが落ちてればもっと前に気付いている。まして一万円札なら秒で気付くだろう。

もし今の自分なら、いや、普通の大人ならどこかに紛れていた一万円札が出てきてラッキーぐらいの感覚だろう。

だが、当時の俺は純粋というか単純というか自分が一万円札を出したと本気で思ったのだ。そしてそれが真実だった。

どの用にしてどのタイミングで出たのかが正確ではなかったので、直前の行動と思考を完コピしていった。

色々試してみた結果、お金のイメージをしながら指を鳴らすと一万円札が鳴らした手の下からハラリと現れることがわかった。

そして当時の俺は100万円出すまでやり続けた。今思えばどんなリスクがあるかも知れないのに、若さは怖いと思う。まぁ今のところは何もリスク的なことは起こってないと思うが。

一晩で100万円という大金を得た俺はドキドキして一睡もしなかった。色々使い道を考えた。学校でもずっとそのことを考えていた。

しかし俺は重大なことに気付いてしまった。物を買うにしても、遊びに行くとしてもあきらかに自分のキャパオーバーな金額になってしまうのは怪しいと。

ワクワクしていた気持ちが一変し、金があっても中学生の俺には扱えないことがジレンマとなっていった。

せっかく金を刷れる人間になれたのに。

結局100万円は使わないままだった。
幸いにも父親が安定した職ということもあり、家計の心配をすることなく、自分の遊ぶ金は高校生になってからのアルバイト代で賄えた。

それに金に見合う人にならないと意味が無いこともわかり、結局は稼げる人間にならないと大金は扱えないと思った。

それから俺は20歳になるまで金は刷らなかった。

                                                                                                                      続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?