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秘密の花園

4月の中頃、芍薬の花を一輪買った。ふんわり咲く過程が見られたらいいな、と思って蕾のものを選んだ。可愛らしい白の芍薬だ。
だが、いつまでたってもかたくなにその蕾を開こうとしない。知人に聞いてみると、芍薬は蜜が多く、蜜が花びら同士をくっつけてしまうため蕾を咲かせるのは難しいらしい。蜜を拭き取ったり、蕾を揉んでみたりしたが一向に開かないまま半月経ったため可哀想だが処分することにした。

ゴミ箱に入れる前にふと、蕾の中はどうなっているのか気になった。
あれだけ固く閉ざされた秘密の花園。開けるなと言われたパンドラの箱を開けてしまうような、鍵穴から開かずの部屋を覗き見るような、純粋で不純な好奇心が行動に移させた。

その固く閉じた花びらを一枚いちまい剥いでいく時、なんとも言えない残忍で、甘美な気分になった。
こんな酷い事をしていいのだろうか。
-でも、ひらかない蕾が悪いのよ。

まるで何も知らない赤ずきんを襲う狼のような。背徳感にゾクゾクするのに、止められない。
どうしても、蕾の中を、見たい。

蕾の中は茶色く枯れ、蜜が付いた部分は黴が繁殖していた。
甘いような苦いような匂いが鼻をかすめる。

半分ほど搔き分けて、怖くなってやめた。これ以上やり続けると、一線を越えてしまうような気がした。
無理やり中途半端に開かせた茶色く変色しかけている芍薬の花が、新聞紙の上に横たわっている。かつて薄桃差した無垢な白の花弁は、枯れて散らばっている。

奇妙な満足感と、まだ毟りたい欲望も丸め込むようにそれらを新聞紙で包んでゴミ箱へ捨てた。

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