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南アフリカで感じた。百聞は一見に如かず、案ずるより産むが易し、はマジって話
テレビでラグビーの試合が流れている。屈強な男たちがぶつかりながらボールを奪い合っている。興奮で声が上ずる解説。割れんばかりの歓声。抱きあう観客。
その光景を見ながらわたしは半年前に訪れた南アフリカの景色を思い出していた。どこまでもつづく岩山。楽し気に輝く海のきらめき。網膜に焼き付く空の青。
去年の夏、「南アフリカに旅行しようと思う」と言ったら「え、大丈夫なの。病気とか治安とか」「何があるの、南アフリカって…」と皆から言われた。
結論から言うと、病気も治安も大丈夫だったし、それどころか、わたしが心から望んでいたものが南アフリカにはあった。
多くの人間は未知の世界に対して好奇心より先に不安を覚える。ここで言う世界とはワールドではなく、フィールドである。
2月のある日、1週間の有給申請を叩きつけて(ホワイト企業なので快く受け取ってくれた)わたしは母と南アフリカへ飛んだ。不安も一緒に。
ヨハネスブルク空港へ着くと、現地で単身赴任している父が迎えてくれた。一気に安心した。
日本を出発してから1日以上たっていた。季節は夏。ホテルの従業員や街を歩く人々には黒人が目立つ。なんだか、途方もなく遠い所へ来てしまった…。
わたし自身父からの話で南アフリカはけっこうなんでもあって良い国だという事を聞いていたものの、いまいちイメージがつかず実際に彼の地に足を付けるまで具体的に何がというのはないけどなにか心配だった。
久々に家族3人が揃い、毎日共に食事を摂り、強い日の光を浴びてどこまでも続く海から吹きあげる風に髪を揺らす。
まるで生き返ったかのようだった。
同じルートで会社へ行きコンクリートの部屋で決まった仕事をしていい加減うんざりしていた。そんな毎日を南アフリカの風が一瞬で吹き飛ばした。
眼に見えるすべての景色に心が洗われた。
広大な平野を動物が悠々と歩く様に心が震えた。
寄せては返す波の音に聞き入った。
街行く人々の陽気さに思わず笑いだしたくなった。
何を怖がっていたのだろう。ここは楽園だった。
地区によっては観光客はもちろんのこと現地の人ですら立ち入らない方がいいといわれている場所はあるが、多かれ少なかれそれはどこでも同じこと。
知らないことを知りたい一心で何も考えず危険を顧みない行動することは旅に関わらず愚かである。
でもそこさえ回避すれば広い世界が待っている。
ネットで見て誰かから聞いただけじゃ知り得なかった、感じ得なかったことが体内にインストールされる。
そして何が怖いかもわからないのに抱いていた不安は全く必要のない荷物だった。
眼を閉じると今でも南アフリカの空を思い出す。
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