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確かに私が暮らしていた町

生まれてから24歳まで、ずっと同じ町に住んでいた。就職と共に町を出てからは、その町に行くことを「実家に帰る」と言うようになった。都会でもなく田舎でもなく、とても住みやすいいい町。住む人みんながその町が好きなように感じる。「おじさんの町だったのに、やけにおしゃれを気取って…」「また事件か…」と多少の自虐も忘れない。他県の人から自分の生まれを聞かれた時、必ず県名ではなく地名で答える、不思議な町。

そんな生まれ育った町を出て、就職し移り住んだのは縁もゆかりもない田舎町だった。結局その後引っ越すまで大好きにはなれなかったが、最終的に残ったのは嫌いという感情ではなかった。ガムシャラに駆け抜けていたな。という懐かしさと少し苦しい気持ち。今後足を運ぶ事はないだろうと思う。

結婚を機に仕事を辞め、(個人的に)文化度が高い(と思う)町に越してきた。まだまだ満喫しきれていないし、今は毎日同じような毎日を過ごしている。まさに毎日がエブリデイだ。

ここに書き残そうと思ったのは、生まれた町でも駆け抜けた町でも文化的な町でもなく、ガムシャラに駆け抜けていた時代に足繁く通っていた、ある町の話。


向かう金曜、帰る日曜
帰る金曜、向かう日曜

ガムシャラ町に住んでいた頃、70キロちょい離れたある町に彼(今の夫)が住んでいた。1年後に車を買ったのだが、最初の1年は電車通い。肉体労働だったこともあり金曜日の夜は大抵ヘトヘトのヘトだったが、土曜日に移動するとなるとどうしても昼すぎになってしまいあまり長く一緒にいられない。なので22時まで仕事がある週じゃなければ金曜日のうちに移動していた。

仕事が終わる。
シャワーを浴びる。
洋服を着る。
2泊3日の荷造りをする。
1時間に1本のバスに乗り込む。
電車を乗り継ぎ1時間半。
彼の家の最寄駅からさらに15分ほど歩く。
これを毎週。

誰になんと言われようが、我ながらよくやったと思う。永遠に語り継ぎたい。このタイムスケジュールを綺麗なレースがついたハンカチーフに刺繍して毎日夫に持たせよう。

雨の日なんかは特に最悪でちょっと泣きそうになりながら通っていた。でも、不思議と行くか行かないか悩む事はなかった。会いに行くことが決まっているというのが行動の理由の全てだ。別にラブラブとか彼に尽くしているとかではない。決まっていた。だから何も文句はない。

向かう夜は、寮の前に止まる終バスがタイムリミット、20:30。帰る夜は、駅から寮に向かう終バスに間に合う電車がタイムリミット、20:12。なかなか早い。
金曜日は到着した途端疲れてバタンと寝るだけだが、パジャマに着替えたりとりあえず書いた眉毛を消したりする時間が相当嫌いだった。疲れてんのに〜。土曜日は1日デートを楽しんだ。日曜日は少しゆっくり寝る。そして荷造りをして大荷物で遊びに行って夜は時間をかなり気にしていつも駅の近くか隣駅で夕飯を食べていた。

正直とても疲れた。

デートから生活に

車を持つと、バスの時間を気にしなくてよくなった。スッピン&パジャマで移動できて人に見せる荷造りをする必要がなくなったため毎回紙袋やらに服を詰めて行った。

「家に着いたらそのまま寝る。
寮に着いたらそのまま寝る。」

言葉で言うとたったこれだけだが、寮が本当に“平日に向けて寝るだけの部屋”になっていた。


つまり、週末の98%は彼が住む町にいた。


日曜日の夜に食事を済ませお風呂に入り歯を磨いて後は寝るだけ!と言う状態になるまで彼の家で済ませる。
本当は、ここまで寝る体制になってから夜の1人ドライブかぁ。という寂しさもあったが、1年半続いた毎週末の1人ドライブ時間は宝物になった。
あの町に向かう面倒臭さも、あの町から帰る面倒臭さも私だけのもので、道との思い出は一言じゃ語れない。音楽も、思考も、風景も。ただ、人は何にでも慣れるもので、だんだんと平日と週末で生活する場所が違うだけ。という気持ちになっていった。

会社の人には「毎週末彼氏のところ行ってるの?すごいね?笑」とよく言われた。
最初はそんなに珍しいことなのだろうか?と思ってテキトーにあしらっていたが、しつこいな〜という気持ちと尽きた愛想のせいで「そうね、週末は彼と暮らしてるかな」と答えるようになっていた。

洗濯機を回したりゴミを出したり夜に散歩したり…確かに私はあの町で暮らしていた。

そんな足繁く通っていた町を、私は大好きになっていた。彼にそれを言ったところ、「俺はそんなに好きじゃない」とのこと。臭いんだそうです。
うーん、確かにね。下水処理が間に合ってないし窓を開けられない日があるね。

…なるほど、私は彼がいる週末のこの町でしか生きてなかったのだ。移動も含めた町の存在が好きだったんだ。1人で暮らしてたら私も好きじゃなかったかもしれない。

ただ、生活していた町が同時に2つ存在していたのは確かで、週末の町が私にとって特別だったことは忘れずにいたいとその時思った。

これから住む町

いま住むこの町は、離れる時に好きと言えるといいな。好きな町が増える方が幸せだし思い出して胸がグッとなるような過去が町とともにあると嬉しい。

90歳くらいになった時、どっかの誰かに「どこで暮らしていたか遍歴」を聞かれたらちゃんと答えようと思う。


生まれは川崎。就職して田舎町に住みながら週末は東京のある町で暮らしていましたが、結婚を機に都内に越しました。1番長く暮らしていたのは…


多くても少なくてもそれぞれのストーリーがありそうなので、70歳ごろみんなに質問して回ろうと決意しました。(ガンバッテ70歳ノワタシ!)



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