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あなたと生きていく、覚悟のはなし

結婚しようと決まった時は、家にいた。私たちらしいプロポーズのようなそうでないような一生に一度の儀式は、この先も思い出すたびに笑顔になるような、そんなものだった。


幾つもの月を数え私は今見つけた
これから先に何があろうとも
あなたと一緒に進んでいこう
(ハンバートハンバート 夜明け より)


ハンバートハンバートの「夜明け」という歌が好きだ。
この歌は、人生の覚悟ができた人の歌なんだろうなと思っていた。この人と生きていくと決めたときの覚悟の歌だと。

私にとっての結婚は、「夜明け」のうたのようなものでありたい、と思っていたが、いざ決まったその時はまだ何も実感が持てなかった。
実際の人生は、覚悟なんかなくても結婚できるし、結婚は生活ってこういうことなのかな、なんて考えていた。


*****


昨日は、新居探しで2件ほど内見に行った後、夜は私の家で晩酌した。

新居候補はいろいろ見るものの、それぞれ一長一短ありなかなか決まらない。仲介会社さんはとても良い方だが、新しい場所に行ったり人と話すのはやはり疲れるので一旦全部忘れて、飲むことにした。

土曜日はしこたま飲む日と決まっている。今は外で飲めないので惣菜を買い込み、アサヒザリッチを2ケース用意し、先にお風呂に入ってさっぱりしてから飲み始めた。

家で飲む場所は、ソファーのときとイスのときがある。
ソファーのほうがリラックスできるし頻度も多いが、イスで飲むときは会話重視の時だと知っている。昨日も、二人の好物アジフライを食べながらイスの上での足の置き場を探りながら、一週間の出来事、そこから感じたこと、などいつものように話していた。


仕事の話から、彼のポリシーの話になった。
私は彼の生きる軸と、それに伴う人との接し方が好きだ。昨日は仕事をする上で「こうありたい」「こうはありたくない」と考えること、また自分の行動を見てくれている人がちゃんといること、など彼はあつく語っていた。

そのポリシーの話は何度も聞いていたが、昨日はもう少し深く知りたくなって、聞いてみた。「こうありたい」と思うようになったきっかけは?

悩みながらだが、きっかけのような今までの出来事を話してくれた。
私たちが出会った中学での授業参観エピソードに始まり、高校大学での紆余曲折と、社会に出て改めて感じたこと、私と一緒にいるようになって変わった話。


正直、衝撃だった。中学時代、知らないところで、こんな考え方をもって、彼は生きていたんだと思った。今わたしの好きな彼は、昔も今も変わっていなくて、でも今の彼をつくる中の一つに自分がいることがわかった。
こんな幸せがあるんだ、と思った。

彼の昔話を聞いていただけなのに、なぜか泣き出したくなるような気持になった。うれしいとか感動したとか、純粋に幸せだけを感じたわけでもなく、想像以上にかなわない人だという少しの嫉妬や、自分を振り返った時の悲しさや、反省や、ほかにもいろんな感情が混ざって涙で昇華させたくなった。
ただ泣く理由を説明できないから、こらえて、ビールで流し込んだ。


*****


晩酌は真夜中まで続き、一日の疲れもありそのまますぐに眠った。

目が覚めたら5時頃で、水を飲みにリビングに行ったらカーテンの隙間が明るかった。カーテンを開けてみるとやっぱりけっこう明るくて、もう夏至まで1カ月だと気づいた。


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彼と朝起きて、昨日そのままになっていた新居の話をした。
私は景色のいい、南東向きのマンションにしたいと心が決まっていた。彼も賛成してくれて、ここに新居が決まった。

マンション6階の部屋からは、少しだけ海が見えて、きっと空が白んでいくところや、朝日が昇るところも見える。

昨日の夜に感じた気持ちが、彼と生きていくことの幸せだったのなら、覚悟の始まりが幸せだなんて、私たちらしくて最高じゃないか。
「夜明け」の一歩目を踏み出せたような、そんな気がした。



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