映画「エルヴィス」は、南部のママの大事な息子の物語

やっと、見てきました。映画、エルヴィスです。音楽ものの、こういう映画は好きなんですが、興味のあったエルヴィスだからどうして見たかったんです。朝のうちの一回しか上映しない状態なり、なかなかタイミングが合わす、焦りました。良かった。見に行けました。

リアルに本人が生きていた晩年は、ちょうど私は高校生、やたら派手な衣装でもみ上げも極端な、お腹の出てきたギラギラしたおじさんとしか、、、。エルヴィス・オン・ステージの印象が強いですね。

彼が一番カッコいい若い時代は後から知ることになるし、高校生の私にはダサいと思えた音楽は、ブルースやカントリーの土臭さ、ゴスペルの癖の強さから来るものかな?
ラブ・ミー・テンダーはベタベタに甘いし、ブルー・スエード・シューズに至っては、青い靴を踏むな?だからそれがどうした、という受け止めで誠に面目ない。見る目の無さに、お恥ずかしい。
知らないと言うのは恐ろしい。日本のグループ・サウンズからビートルズやストーンズを知り、その後からエルヴィスを知り、ずっと後になってブルースやカントリーを知ったわけで、逆から辿った当時の極東の少女にはエルヴィスは理解できなかったわけです。

ましてや、メンフィスというアメリカ南部の町で、貧しい白人の生活はどうなるか?白人でありながら黒人の居住区に住み、社会の底辺を見ることになるのです。根強い人種隔離政策、銃弾に倒れるケネディ兄弟、キング牧師、シャロンテート。ベトナム戦争の真っ只中でもあり、若者は翻弄されています。むき出しの愛想に銃社会、偏見は野蛮な行為を生み出し、格差社会に絶望する時代なのでした。そんなこと、何もわかってなかった。
黒人の音楽を白人が歌い、腰を降りながら女性を魅了することが意味すること、社会がどう反応するか。

双子で生まれて相方を最初から失ったエルヴィスは、大切に大切に育てられ、マザコンと言って良いかもしれない、溺愛と依存的な愛の中で生きてきたのですね。父親が頼りにならない、というだけでなく最愛の母を通してキリスト教に繋がっていたからだけでも、ない。荒っぽい時代に、一足先の音楽的センスの持ち主の天才は、迷子になり勝ちだったと思います。

ブルース、カントリーに白人音楽がエルヴィスの中で一体化して炸裂する。天性の甘い声と黒人達から学んだリズム感。南部ならではのカントリー魂。体全体で歌えば、ステップも踏むし、のけぞるし、腰も振ることになる。それが若者の音楽。それが、ロックンロール。反骨の音楽。

聞き覚えのある曲ばかり。偉大です。凄まじいまでのヒット曲の大量生産器。あれもこれも知ってる。
エルヴィスは、作詞作曲はしなかったけど音楽的センス抜群で、どうしたら良い曲になるかわかっていたのです。
ファッションもアイコンになる。ピンクと黒のスーツにコンビの靴。私から見たら、ミッチー・カーチスのファッションです(笑)。当たり前だけど、当時のロカビリー歌手達がこぞってエルヴィスの真似をしてただけ。後の襟を高く立てた白いジャンプスーツもエルヴィスには無くてならないものになります。

そんな天才エルヴィスに近付き、食い物にしていくパーカー大佐という人がいるのです。良い人ばかり演じてきたトム・ハンクスの名演で、パーカー大佐のワルさがリアルに浮き上がります。
アメリカン・ドリームを絵に描いたような、ヒットによって得られたエルヴィスの新しい贅沢な生活。音楽はわからないけど商才たくましいパーカー大佐に対して、経済には無知なエルヴィスとその家族。だからこそ、パーカー大佐の力がなけれ売れるのは不可能だったわけだけど、、、。

プリシラとの出会いと別れ、薬漬けになり、愛する母も妻も失いますます孤独になり、銃弾を恐れ、パーカー大佐に搾取されながらも浪費し続ける、、、。足のない鳥は、飛び続けるしかなく、飛んでいる姿のまま、亡くなるのでした。圧倒的にエルヴィスになりきったオースティン・バトラーに驚き、矢継ぎ早に畳み込むストーリー展開に観るものたは巻き込まれて行きます。しかしまあ、パーカー大佐はいくらなんでも、音楽が分からなすぎです。そして、いくらなんでも、エルヴィスファミリーはお金勘定のできない世間知らずばかり。エルヴィスもパーカー大佐に任せすぎ。だからやりたい放題にされてしまう。
時代性もあるのか、ミュージシャンの人権も尊厳も、健康も考えてくれる人がいない。関連グッズは肖像権の管理もされずに粗悪なものもあったようですね。

ギネスブックに乗るほど、最も成功したソロアーチストは若くして心臓発作で亡くなります。この映画は、悪役・パーカー大佐から見たエルヴィスとして描かれています。違う角度から見たら、また違うエルヴィスが見えるかもしれません。
数々のヒット曲に彩られたビッグスターの音楽伝記映画として、楽しめます。胸に迫ります。


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