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笑えて少し狂ってて(そうかしら?)、ほんとのところは何もわからない

恋人への意識をズラさなければいけない。という予感に従って、私は見たいものをなるべく出かけて見るようにした。

新宿でデヴィッド・クローネンバーグの新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」を見た。一言でいえばこの映画は「セックス」でした。もう登場人物全部がずっとセックスについて話しているので笑いそうになる。芸術とセックスをごちゃ混ぜにして難解な言葉も使うが結局のところ「もう人類超ヒマだから死ぬかセックスするしかねえ」とお洒落に言い合って終わり。生きてる椅子やベッドが可愛かった。私もあの椅子に座って朝食を食べたい。

その後インターネットで知り合った初対面の青年と紀伊国屋書店で待ち合わせをした。説明が難しいが元々の知り合いやそうではない人々が集まって何故か吹きだまりのような場所がインターネットで出来たのだ。

彼とはそこで知り合って私の元々の知り合いの革命家(あるいは虚構を作る芸術活動家)が都内のあるバーにいるから面白そうだしそこに一緒に行こうという話なったのだ。

が、革命家はバーに行くかもしれないし渋谷のどこかに行くかもしれない、まだわからないと言いはじめ、全然何もわからないまま、新宿をふらふらした。とりあえず夕方だし食事をしようという話になり適当な店に入る。

青年は顔に化粧を施していた。何故か私のまわりには女性的なアイコンを好む男性が多い。つまり、化粧、長い髪、フェミニンな洋服、等々である。内面的なものは私には正直分からないが父なるものへの反発、というのが彼らのテーマになっている気がする。長い睫毛にマスカラがよく似合っていたのに伝え忘れてしまった。

食事を終えても革命家からは連絡が入らず、おそらく渋谷に向かうだろうという方に賭け新宿から渋谷方面に移動する。金曜日の夜はどこも人人人…で歩きにくい。

ようやく渋谷近郊についたところで革命家から「寝てましたごめんなさい」というメッセージが届き脱力しとりあえずカフェに入った。青年は怒らず笑っていた。

カフェでポツポツとお喋りしていると黒いサテンぽいシャツをきた革命家が入ってきて胡散臭いことこの上ない。席に着くなり饒舌にペラペラと話し出す。いつもこの調子だ。言ってることの8割は私には理解できないが青年には私より理解出来る言葉が多いようで適時質問を挟んでいた。

革命家は頼んだアイスコーヒーが少しぬるくなるまで喋った(というよりも演説していた)が、そろそろ移動しようと言う。どこに?と聞くと若手のアーティストが寝泊まりしながら作品の販売や作成をしているアパートが近くにあるからそこに行こうと言う。

あとから考えると「いや、今日はこれで」とも言えたのに全くそういう考えにいたらず「とりあえず行くか」という気分になるのだから不思議だ。革命家の才能なのかもしれない。

アパートの一室には5、6人の若者の男女がおり、雑然と作品が並べられていた。私は作品に集中することが出来なかった。無造作に積まれた灰皿や酒の空き瓶、部屋着で裸足でちょこんと座っているピアスだらけの女の子、性的なモチーフ、壁一面に貼ってある漫画のような何かしら、正直に言うと居心地が悪かった。

ずっと不機嫌そうに話してた男の子が急に窓を開け「月!」と宣言し、「うたを詠もう」と言い出す、うた?、俳句か?席順でさっきまでクタッとソファーに座り「この世に何も興味ありません顔」をしていた男の子が声を荒げる、何で揉めてるのかさっぱり分からない。

私は社会的な微笑みを浮かべて「明日も仕事なので帰ります」と宣言した。青年はこの部屋に残りうたを詠むらしい。革命家と青年が外まで見送ってくれた。確かに私の目にも月は見事で、なんとも言えない敗北感を感じながらひとりで家路についた。


バツイチ年増へのサポートっていやらしい響きですよね。それが言いたかっただけです。