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映画『或る夜の出来事』フランク・キャプラ~ロマンチック・コメディの古典的名作~

こういう懐かしのハリウッドの名作は安心して楽しめる。そして多くの映画の原点がここにはある。ロマンチック・コメディの傑作たる所以である。

まず気づくのは、『ローマの休日』(1953年)がこの映画をアレンジして作ったということがよくわかる。これは大富豪の令嬢が身分を隠して新聞記者と旅をする物語。『ローマの休日』は、大富豪の令嬢が王女に変わっただけだ。新聞記者はスクープ目当てに令嬢と極秘裏に旅をしつつ、恋心が芽生えてしまうというストーリーはほとんど同じである。また『卒業』(1967年)の結婚式の挙式最中に花嫁が逃げ出すということもこの映画でやられている。ヒッチハイクで令嬢が車を止めるためにスカートをめくって大胆に脚を出すのも、のちに多くの映画で繰り返されている。様々な映画の原型がここにあるのだ。

最初、勝手に飛行士と婚約を決めて親に反対され、船に軟禁された娘がいきなり海に飛び込むシーンには驚かされた。それだけ向う見ずな令嬢だという演出なんだろうが、大胆である。婚約相手に会うためにニューヨーク行きの夜行バスに乗り込む令嬢のクローデット・コルベールが、新聞記者のクラーク・ゲーブルと出会う。バスの中でケンカばかりしている二人が、雨で先に進めなくなったために、夫婦のフリをしてモーテルに泊まるシーンが有名だ。

「ジェリコの壁」と言われる毛布で二人のベッドの空間を仕切る場面だ。クラーク・ゲーブルがクローデット・コルベールに言う。

「俺はプライバシーを尊重するタチでね。覗きは嫌いだ。
ジェリコの壁って訳さ。ヨシュアが角笛で崩したあの壁より堅固だ。 
 俺は角笛を持ってない」

「ジェリコの壁」とは、「ジェリコの町に築かれたが角笛の音によって崩れたという『ヘブライ聖書』に登場する城壁のこと」だそうだ。この「ジェリコの壁」が3度映画で使われるのが上手い。次に出てくるのが、ニューヨーク手前の二人の最後の夜。二人はすでにし合っている場面だ。 クローデット・コルベールは、クラーク・ゲーブルの「島で暮らしたい」という夢を聞いて、「ジェリコの壁」を越えてやってくる。「その島へ一緒に逃げて。もう離れられないわ。あなた無しでは生きられない」とを告白するのだ。「ベッドへ戻るんだ」とたしなめるクラーク・ゲーブルだったが、自分の気持ちにすぐには気づかない。そして、ラストシーン。結婚式を逃げ出したクローデット・コルベールは、クラーク・ゲーブルと落ち合って同じモーテルに泊まるのだが、まだ正式な婚約解消になっていないため、再び「ジェリコの壁」で仕切っているらしい。そして彼は彼女の父親のもとに電報を送る。

 「結婚解消の手続きはいつ終わる?遅いぞ。ジェリコの壁が崩れそうだ」
父「すぐ返事を打て。『壁を倒してよし』」

そして、モーテルの管理人夫婦が会話している。

妻「おかしな新婚、きっと結婚してないわ。
夫「証明書を持ってたぞ」
妻「でも夜は毛布で仕切りをしてるわ。何のためかしら?」
夫「今、角笛を届けた。買いに行かされた」
妻「角笛を何に使うの?」
夫「わからん」

コテージの外で管理人夫婦のやり取りがあって、オモチャの角笛の音がする。そして毛布が落ちるカットが映って、部屋の明かりが消えて映画は終わるのだ。シャレています。部屋の中の二人を一切映さずに終わらせているのが上手い。

船、バス、飛行機、車というあらゆる乗り物が効果的に使われ、恋関係ではない男女がモーテルの一室で一夜を共にする禁断の密室があり、ケンカしながらの二人の旅とすれ違いが続く。そして随所にシャレた台詞が散りばめられて、見事なロマンチック・コメディになっている。こんな名台詞もある。

エリー「あなたの名前は?」
ピーター「何?」
エリー「誰なの?」
ピーター「俺か?夜は力強いタカ。朝はらしい君の頬をなでる風さ」



1934年製作/105分/アメリカ
原題:It Happened One Night

監督:フランク・キャプラ
製作:フランク・キャプラ
製作総指揮:ハリー・コーン
原作:サミュエル・ホプキンス・アダムス
脚本:ロバート・リスキン
撮影:ジョセフ・ウォーカー
音楽:ルイス・シルバース
キャスト:クラーク・ゲーブル、クローデット・コルベール、ロスコー・カーンズ、ウォード・ボンド、ウォルター・コノリー、アラン・ヘイル

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