見出し画像

自伝的映画『フェイブルマンズ』スティーブン・スピルバーグ~映画の魔力に取り憑かれて~

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

スティーブン・スピルバーグの自伝的映画映画監督になる夢を持った少年の家族の思い出、学生生活、そしてハリウッドに足を踏み入れるまでが描かれている。スピルバーグの映画への思いがあふれている。思っていた以上に楽しめた。

まず家族で初めて映画館に行ったシーンの時の興奮が描かれる。映画は『地上最大のショウ』(1952年)。列車と車が衝突するシーンに夢中になり、自宅で列車の模型を買ってもらい、レールを敷いて走らせ、8ミリ撮影機をプレゼントされ、映画のシーンを再現する。まさに映画の始原的な興奮、迫ってくる列車の動き、車と激突する瞬間のスペクタクル。スピルバーグの初期の映画『激突』を思い出す。そこにはシンプルな映画のアクションそのものへの興奮があった。

そして『リバティ・バランスを射った男』(1962年)などを観た影響などもあり、西部劇や戦争映画を友人たちと再現するようになる。動き、アクションを夢中になって撮り続けた。砂煙を起こし、銃撃戦や血糊なども用意して、いかに迫力あるシーンが撮れるか、家族や友人たちをアッと言わせ、喜ばせられるかを追求した。時にはフィルムに穴を開けて、光を演出した。そんな映画少年だったスピルバーグが映像の恐ろしさに気づく場面がある。家族のキャンプを撮っていた自らの映像で、ある「真実」が映り込んでいることを発見してしまうのだ。知らず知らずに撮っていた画面の隅で、母親(ミシェル・ウィリアムズ)の秘密を知ってしまう。映像によって知らされてしまうのだ。映像は、良くも悪くも「真実」を映し出してしまう。それは撮っている側の意図を越えて、大事な何かが映し出される。映像の怖さを描いているのが、この映画の面白さだ。

後半はユダヤ人差別で苦しむ学生生活、次第にバラバラになっていく家族、そして恋。人生にはどうにもならないことがあり、そのどうにもならないことを受け入れながらも進んでいくしかないことが描かれる。家族が崩壊の危機にあって、サミー(ガブリエル・ラベル)は学生たちの映画を作り続け、妹に「こんな時、よく出来るわね」と非難される。母のどうにもならない心の真実、そのことによって壊れていく家族。それもまた現実であり、サミー少年はその現実の矛盾を受け止めていく。そして、学校で虐められ続けた男をヒーローにした映画を作ってしまう。イケメンでスポーツ万能の男をヒーローとして祭り上げ、その横で負ける惨めな男も描き出す。まさに現実を虚構化して、客を喜ばせる物語を作ってしまうのだ。ヒーローにされた男は、「これは俺じゃない。これはイジめた俺への復讐か」とサミーに詰め寄る。強さや美しさがフィルムの中で輝いてしまう「真実」をスピルバーグを映画を作ることで知っていった。その男がどんな卑劣な男であろうとも、フィルムの中では輝いてしまうのだ。その映像の恐ろしさもまた、この映画には込められている。強く美しいものがより輝き、弱くダメな男が引き立て役になる、その虚構の力。ヒーローを求めてしまうのだ。その映画の虚構の力に巻き込まれてしまうことをスピルバーグは描いている。

ラストに偉大なる映画監督ジョン・フォードが登場する。誰が演じていたのかと思ったら、デビット・リンチである。「映画が撮りたいんだってね」と部屋に招き入れられたサミーは、壁に掛かっている絵の感想を求められ答えるが、フォードがサミーに言う。「地平線が下にある絵は面白い。そして地平線が上にある絵も面白い。しかし地平線が真ん中にある絵はクソつまらない」と。なんともカッコいい。希望に胸を膨らませ、小躍りしながら歩き去って行くサミーの後ろ姿を映すショットの地平線が真ん中にあるのを慌ててパンナップで修正させて、地平線を下に持って行くショットで映画は終わる。


2022年製作/151分/PG12/アメリカ
原題:The Fabelmans
配給:東宝東和

監督:スティーブン・スピルバーグ
製作:クリスティ・マコスコ・クリーガー、スティーブン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
製作総指揮:カーラ・ライジ、ジョシュ・マクラグレン
脚本:スティーブン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
美術:リック・カーター
衣装:マーク・ブリッジス
編集:マイケル・カーン 、ラ・ブロシャー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
キャスト:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、ガブリエル・ラベル、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ、ジュリア・バターズ、キーリー・カルステン、ジーニー・バーリン、ロビン・バートレット、クロエ・イースト、サム・レヒナー、オークス・フェグリー、イザベル・クスマン、デビッド・リンチ

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?