『親不孝通り』増村保造~増村映画で描かれる強い女~
(C)KADOKAWA 1958
日本映画専門チャンネルで増村保造監督作品をやっていたので見た。増村保造は学生時代から名画座などで何本も見ているが、もう一度ちゃんと見直したい監督だ。それは最近「大映映画祭4K」特集で見た『赤い天使』や『刺青(いれずみ)』が面白かっただけではなく、最近読んだ本『他なる映画と 1』のなかで濱口竜介が、増村映画のことを<イマジナリー・ラインを軽々と超える「逃げる女を追い詰める」人物の振り返りとカメラポジション>のことを書いていたからだ。
と『妻は告白する』(1961)を題材にしながら書いている。
また同じ映画監督の塩田明彦も『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』のなかで、『曽根崎心中』(1978)、『遊び』(1971)などを引き合いに出しながら、「映画が音楽」、「演技が歌」になっていると指摘している。台詞の反復の独特のグルーヴ感。台詞が「情念を加速させる装置」になっている、と増村映画を評価している。
前置きが長くなってしまったが、増村保造作品はやはりただならぬ何かが秘められているのだと思う。さて本作は、1958年製作の増村保造監督の初期の白黒作品だ。川口松太郎原作の映画化。当時、日活の「太陽族映画」が評判になっていて、その向こうを張って大映が作ったチンピラ青春映画だ。「親不孝通り」とは、「銀座6丁目あたりのバーやクラブなど飲食店が並ぶ通りのこと。ここで遊ぶ学生たちが親を泣かせるのでこの名がついた。」ということらしい。そんな与太学生に川口浩。川口浩は、姉と二人暮らしで、姉を母のように慕っている。そんな姉(桂木洋子)が恋人の証券マンの船越英二に妊娠されられ中絶して捨てられたことに腹を立て、復讐のため船越英二の妹(野添ひとみ)に接近し、姉がさせられたことと同じことをしようとする物語。
ボーリングの勝負を賭けて不良外人から金を巻き上げたり、ダンスホールや銀座のスナック街で遊ぶ学生など当時の風俗が感じられて面白い。与太学生たちの就職の厳しさとエリートたちとの格差、女性は就職口などなく、いい男を見つけて家庭に入るしかない現実なども描かれる。そんななかにあって、川口浩から強引に誘われつつも、立場が逆転するように男を愛することに決める野添ひとみの決然とした勝ち気さが面白い。夜のススキ野原が「湖のようだ。泳ごうぜ」と言って、川口浩が野添ひとみの手を取って強引にススキの林の中に引きずり込む場面の移動撮影と最後の夜空に飛ぶ飛行機がなかなかいい。それが今度は野添ひとみが川口浩の手を取ってススキ野原に引きずり込む場面があり、立場が逆転して反復される。
川口浩が当初の目的を達成し、野添ひとみを妊娠させ、兄の船越栄二の前で別れ話を切り出し、復讐を終えたかの見えて、野末ひとみはシングルマザーとして子供を産む決意をして、「最初決心したようにどこまでもあなたを愛させてもらうわ」と耳元で囁き、行きかけて振り返って再び戻ってきて「子供の顔を見たかったらいつでもいらっしゃい」と囁く場面は、可愛らしい顔をしながらもゾクッとする女の強さが出ている。増村保造が描く女はいつだって、したたかで逞しく強い女が多い。
1958年製作/80分/日本
監督:増村保造
脚色:須崎勝弥
原作:川口松太郎
企画:塚口一雄
製作:永田秀雅
撮影:村井博
美術:間野重雄
音楽:池野成
録音:渡辺利一
照明:伊藤幸夫
キャスト:川口浩、桂木洋子、野添ひとみ、船越英二、小林勝彦、三角八郎、市川和子、原真理子、潮万太郎、水木麗子、小山慶子、松村若代、竹里光子、春本富士夫、竹内哲郎、木村るり子、市田ひろみ、三宅川和子、瀬古佐智子、宮戸美知子、西川紀久子、須藤恒子、此木透
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