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老紳士の銀行強盗『さらば愛しきアウトロー』デヴィッド・ロウリー監督×ロバート・レッドフォード

Photo by Eric Zachanowich. (C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

奇妙な老紳士「黄昏ギャング」の銀行強盗の話である。それをアクションではなく、人間ドラマとして描いたのがこの作品。1980年代初頭からアメリカ各地で銀行強盗をやり続け、それによる逮捕と脱獄を繰り返した実在の犯罪者フォレスト・タッカーをデヴィッド・ロウリーが映画化した。ハリウッドの名優であり美男子のロバート・レッドフォードの引退作となった。数々の作品があるが、『明日に向かって撃て』や『スティング』でのポール・ニューマンとの粋な二人のコンビが忘れられない。

デヴィッド・ロウリーの『セインツ 約束の果て』が想い出の「愛の家」に戻ろうとする犯罪者の映画であり、『A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー』は愛の記憶のある「家」に居着いてしまう幽霊の映画だった。それに比べ、このロバード・レッドフォード演じる老紳士の銀行強盗フォレスト・タッカーは、「家」に定住できない彷徨える男の話だ。「定住する愛」を受け入れられない彷徨えるゴーストとも言えるのかもしれない。愛し合う二人が幸福に暮らすためには、定住する「家」が必要である。それを夢見ながら彷徨う二人を描く場合もあるが、フォレスト・タッカーという男は、最後にジュエル(シシー・スペイセク)というパートナーを見つけ、脱獄せずに彼女と暮らす人生を選んだと思いきや、またしても家を出て銀行強盗を繰り返す。愛を享受して「家」に居続けられない男なのだ。定住せずに彷徨いながら自分のスタイルを貫き続ける男をロバート・レッドフォードが最後に演じた。

拳銃は見せるだけで使わず、人も殺さず、紳士的に笑って銀行強盗を繰り返す。アメリカ全土を移動しながら、各地で銀行強盗をやり続け、捕まっても脱獄を繰り返し、まさに懲りない男である。そんな奇妙な男をデヴィッド・ロウリーは静かに追い続けて映像化した。激しいアクションシーンを描かず、山場となる金塊を奪う銀行強盗の場面さえ一切描かない。そして最後に警察に捕まる場面も描かない。悠々と馬に乗って、追ってくるパトカーの列を見下ろす場面があるだけであり、フォレスト・タッカーを追い続けた刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)に電話で知らせがあるばかりなのだ。本来ならばアクション場面は映画の山場となるはずである。それをあえて描かずに、老紳士のフォレスト・タッカーと夫に先立たれて牧場を終の棲家とする女性ジュエルと二人で過ごす場面を描き、さらに刑事ジョン・ハントとフォレスト・タッカーがトイレで出会い会話する場面を、興味深い味わいあるシーンとして演出している。デヴィッド・ロウリーの映画に出続けているケイシー・アフレック演じる刑事ジョン・ハントは、フォレスト・タッカーの人生を知るうちに親しみや共感のような感情が生まれていく。それは、デヴィッド・ロウリーがロバード・レッドフォードに感じている「粋なスタイルへの憧憬」と重ねられているような気がする。トム・ウェイツがロバート・レッドフォードの「黄昏ギャング」の仲間として出ているのも嬉しい。ケイシー・アフレックが『スティング』のあの鼻に手をやる仕草をレッドフォードにオマージュを捧げるようにしてやっている。


2018年製作/93分/G/アメリカ
原題:The Old Man & the Gun
配給:ロングライド

監督:デヴィド・ロウリー
製作:ジェームズ・D・スターン、ドーン・オストロフ、ジェレミー・ステックラー、アンソニー・マストロマウロ、ビル・ホールダーマン、トビー・ハルブルックス、ジェームズ・M・ジョンストン、ロバート・レッドフォード
製作総指揮:パトリック・ニュウォール、ルーカス・スミス、ジュリー・ゴールドスタイン、 ティム・ヘディントン、カール・シュポエリ、マルク・シュミットハイニー
原作:デヴィッド・グラン
脚本:デヴィビッド・ロウリー
撮影:ジョー・アンダーソン
美術:スコット・クジオ
衣装:アンネル・ブローダー
編集:リサ・ゼノ・チャージン
音楽:ダニエル・ハート
音楽監修:ローラ・カッツ
キャスト:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローバー、チカ・サンプター、トム・ウェイツ、シシー・スペイセク、イザイア・ウィットロック・Jr、ジョン・デビッド・ワシントン、キース・キャラダイン

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