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『さかなのこ』沖田修一~「普通ってなに?」「好き」を貫く熱量~

画像(C)2022「さかなのこ」製作委員会

さかなクンとは一緒に仕事をしたことがあるので、彼がいかにまわりに気を遣い、優しくて、気配りのできる才能豊かな人であるかをよく知っている。一緒にいたスタッフ全員に、スラスラと魚の絵を描いて配る気配りとその集中力、絵の丁寧さには驚かされた記憶がある。一方で、頑張りすぎでダウンする場面もあった。そのさかなクンをのんが演じた。孤立を恐れないアーティスト的人生という意味では、二人は似たようなところもある。

冒頭に「男か女かはどっちでもいい」 という文字が画面に示される。そんな枠組みはどうでもいいというのが、まさにさかなクンだ。沖田修一監督は、どこかユーモラスで人間に溢れた独特の作風が魅力的な映画監督である。特に『横道世之介』は大好きだし、『滝を見に行く』『おーい!どんちゃん』などユニークな作品も多い。このさかなクンの自叙伝「さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!」を原作にユーモラスに寓話風に仕上げるにはピッタリの監督だと思った。

寝ても覚めても魚に夢中の小学生ミー坊、そんな特異な熱量と「好き」でい続けられる才能をやさしく温かく見つめるのが、母親役の井川遥だ。実際のところはよく知らないが、この母親の存在がなかったら、さかなクンはつまらないダメな人間でしかなかっただろう。井川遥が好演している。高校生になってからの街の不良たちにからまれても動じないエピソードは、寓話風である。ユルい感じで、敵対するグループをミー坊が無化してしまうのだ。幼なじみの不良ヒヨを演じた柳楽優弥、不良の総長の磯村勇斗、カミソリ籾の岡山天音などがとぼけた味わいで演じている。さらに夏帆、宇野祥平らの脇役も温かい存在感でミー坊を見守る。「普通ってなに?」とミー坊が尋ねる場面がある。「普通」という概念に縛られて、何かを諦めてしまっている凡人たちには、「好き」」を貫くさかなクンに勇気をもらえる。


2022年製作/139分/G/日本
配給:東京テアトル

監督:沖田修一
原作:さかなクン
脚本:沖田修一、前田司郎
製作:河野聡、太田和宏、伊藤はやと、鳥羽乾二郎、今田圭介、森田圭、玉井雄大、広田勝己
エグゼクティブプロデューサー:濱田健二、赤須恵祐
プロデューサー:西ヶ谷寿一、西宮由貴、西川朝子、日野千尋
撮影:佐々木靖之
照明:山本浩資
美術:安宅紀史
編集:山崎梓
音楽:パスカルズ
主題歌:CHAI
魚類監修:さかなクン
魚類・水槽コーディネート:石垣幸二
キャスト:のん、柳楽優弥、夏帆、磯村勇斗、岡山天音、三宅弘城、井川遥、さかなクン、西村瑞季、宇野祥平、前原滉、鈴木拓、島崎遥香、賀屋壮也、朝倉あき、長谷川忍、豊原功補、中須翔真、増田美桜、田野井健

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