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ジャン・ルノワール『どん底』~安宿に辿り着く者、抜け出そうともがく者たちの人間喜劇

※写真(C)1936 Gaumont

ゴーリキーの『どん底』をジャン・ルノワールが映画化。帝政末期のロシア社会を1930年代のフランスに置き換え、下層社会に生きる人々を描いた。黒澤明も映画化しているが、黒澤の方が原作に忠実で厳しい暗い現実を描いたのに比べ、ジャン・ルノワールは、前半に男爵と泥棒ぺーぺルとの友情物語のエピソードを膨らませ、ラストにぺーぺルとナターシャの恋人たちの希望の未来を描いているようだ。映画を観た印象としては、安心して楽しめるフランス映画らしい群像劇であり、人情喜劇になっている。

安宿に集まる貧しき人々。個性的な登場人物たち。賭博ですべてを失った男爵、親の代からの泥棒稼業、落ちぶれた俳優、アコーディオン弾き、本ばかり読んでいる娼婦、強欲な家主、泥棒ぺーぺルと恋仲の家主の年の離れた妻ワシリーサ、そして純真な妹ナターシャ。ナターシャは秘かにぺーペルのことを慕っていた。

安宿に辿り着くもの、抜け出そうともがくもの。酒とカードと歌と音楽など、安宿のコミュニティもなかなか楽しそう。ナターシャを口説く太った役所の監督官 、強欲の家主をめぐるドタバタもあり、友情と恋の物語が展開される。階段を使った安宿のセットや中庭での群像劇の演出、ジャン・ギャバン、 ルイ・ジューベ など役者たちの魅力など古典的名作であり、一見の価値あり。


1936年製作/93分/フランス
原題:Les bas-fonds
配給:川崎市アートセンター

監督:ジャン・ルノワール
製作:アレクサンドル・カメンカ
原作:マクシム・ゴーリキー
脚本:エブゲーニイ・ザミャーチン、ジャック・コンパネーズ、ジャン・ルノワール、シャルル・スパーク
撮影:フェドート・ブルガソフ、ジャック・メルカントン、ジャン・バシュレ
美術:ユージン・ローリー、ユーグ・ローラン
編集:マルグリット・ルノワール
音楽:ジャン・ウィエネル、ロジェ・デゾルミエール
助監督:ジャック・ベッケル
キャスト:ジャン・ギャバン、ルイ・ジューベ、シュジー・プリム、ジュニー・アストル、ジャニー・オルト、ウラジミール・ソコロフ、ロベール・ル・ビギャン、モーリス・バケ、ルネ・ジェナン、ポール・タン、ナタリー・アレクセイエフ、アンドレ・ガブリエロ、カミーユ・ベール、レオン・ラリブ


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