見出し画像

映画『バカ塗りの娘』津軽塗の丁寧に色を重ね、時間を重ねること

(C)2023「バカ塗りの娘」製作委員会

「バカ塗り」とは、「バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫」と言われるほど塗っては研ぐ工程を繰り返す津軽塗を指す言葉だという説明が、映画の最初に津軽塗を見に来た客(篠井英介、松金よね子)に津軽塗を食器に使う旅館の主人(酒向芳)が説明する場面から始まる。丁寧な作りだ。キャストも題材も地味な映画だ。

津軽塗の職人である父(小林薫)と娘(堀田真由)が台詞もなく黙々と津軽塗の作業をする場面がある。小林薫は寡黙な職人タイプで余計なおしゃべりはしない。部屋の中に響くそれぞれの作業の音がしばらく続き、父と娘の2ショットで、お互いがお互いの作業を確認しつつ、目線を隣りに移してはまた自分の作業を黙々と続ける。その二人の様が美しい。

丁寧に塗り重ねられる色、時には削ぎ落とし、塗っては研ぎの繰り返し。伝統工芸の作業は単調ながら、時間をかけて艶を出すその積み重ね。今どき言われるタイパ(タイムパフォ-マンス)とは真逆のゆっくりと使われる丁寧な時間。美しい津軽塗は、すぐになんでも器用にできない娘(堀田真由)の人生そのもののように、ゆっくりと静かに重ねて塗られていく。美しく価値あるものは、手間暇かけて、時間がかかるものなのだ。そんな作業の丁寧さを思い出させてくれる映画だ。

家業を継ぐのを拒否して美容師をする器用な兄(坂東龍汰)の人生も、同性婚(相手は宮田俊哉)というまだ社会とうまく適合しない別の問題を抱えている。職人であった祖父の死をきっかけに、時間をかけてゆっくりと行き違った親子の溝が埋められていく。そんな時間の積み重ねとそれぞれの自分の生き方に対する熱い思いが関係を作っていくことになるのだろう。女性が家業を継ぐこととか、通夜で女性が酒を飲む場面とか、男性優位のジェンダー問題もさり気なく入れながら、全体的な丁寧な作りに好感が持てた。

2023年製作/118分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ

監督:鶴岡慧子
原作:高森美由紀
脚本:鶴岡慧子、小嶋健作
企画プロデュース:盛夏子
プロデューサー:遠藤日登思、松岡達矢、福嶋更一郎
撮影:高橋航
照明:秋山恵二郎
美術:春日日向子
編集:普嶋信一
音楽:中野弘基
キャスト:堀田真由、坂東龍汰、宮田俊哉、片岡礼子、酒向芳、松金よね子、篠井英介、鈴木正幸、ジョナゴールド、王林、木野花、坂本長利、小林薫


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?