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孤高の映画作家カール・テオドア・ドライヤーのサイレント家庭劇『あるじ』

画像(C) Danish Film Institute

世界的な数々の映画監督たちに影響を与えたデンマークの孤高の映画作家カール・テオドア・ドライヤーが1925年の作ったサイレント映画。普通の家庭を描いたオーソドックスなホームドラマで、フランスをはじめ世界的に大ヒットしたらしい。さまざまな実験的な映画も作っているドライヤーだが、本作はとてもユーモラスで市井の生活を描いた作品であり、こういう普通の映画も撮っていたのかと思った。このヒット作のおかげで歴史的名作『裁かるるジャンヌ』が撮れたらしい。

家庭内で傲慢に威張り散らしている男ビクトルは、妻イダをいつも怒鳴りつけている。「コーヒーが出てくるのが遅い」、「スプーンがないぞ」、「洗濯物をこんなところに干すな」、「子供をすぐに泣き止ませろ」。明治の家父長制家族の日本を思わせるが、万国、昔から男が威張っているのは共通なのだろう。妻のイダはいつも育児と家事に追われて疲れ果てていた。そんな家庭内の様子を見かねたお手伝いのマッス婆さんは、イダを実家に帰らせることにする。生活が一変したビクトルは、かつての乳母、マッス婆さんに再教育され、家事も育児も自分でやるようになる。妻イダが不在になって、ビクトルは初めてその存在を大きさを知り、病気も癒えて実家からイダが帰ってきて、めでたしめでたしといった他もない物語。

マッス婆さんのキャラクターが強烈。一番アップが多いのではないだろうか。ほぼ室内劇。手を後ろに組んで壁に向かって立たされる息子と同じことを最後にビクトルがさせられるアクションの反復。干していた洗濯物を投げつけていたビクトルが、外から洗濯物の桶を持って階段を上がって部屋まで運んでくる場面があったり、コーヒーを出してもらって飲むだけだったのが、自らコップを洗う場面も描いてみせる。同じ室内劇の中でのビクトルの変化がそいうアクションを通じて強調されるのだ。ラスト、イダが実家から帰ってきたのに、なかなかビクトルに会わせない勿体ぶった演出。物置BOXのようなものにイダを隠し、イダがそのBOXの上の窓から部屋の中をこっそり覗く場面や、イダが書いた紙の走り書きをわざわざビクトルに読ませて、ヤキモチを妬かせてみたり、後ろ向きで手を組んでいるビクトルにそっと近づくイダなど、たっぷりと時間を取って二人の再会場面を演出している。最後は家族みんなでテーブルを囲む姿が微笑ましい。単純な家庭劇でありながら、丁寧にアクションや映像演出で見せていく手法は、今でも参考になるところがある。


1925年製作/107分/デンマーク
原題:Du skal aere din hustru
配給:ザジフィルムズ

監督:カール・テオドア・ドライヤー
原作:スベン・リンドム
脚本:スベン・リンドム、カール・ドライヤー
撮影:ゲオー・スネーフォート
美術:カール・テオドア・ドライヤー
キャスト:ヨハンネス・マイヤー、アストリッド・ホルム

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