カール・テオドア・ドライヤー『ミカエル』~芸術と同性愛的な禁断の愛と孤独
画像(C)2016 Friedrich Wilhelm Murnau Stiftung
若妻と前妻の一人息子との禁断の愛を描いた『怒りの日』やドライヤーの遺作である愛に生きた貴婦人を描いた傑作『ゲアトルーズ』にも通じる初期の無声映画。退廃と禁断の愛の三角関係を描いた室内劇。室内セットしか出てこないし、絵画も入れ込んだ引きの映像を多用しており、同じ狭い室内劇の『あるじ』とは趣きが違う。『あるじ』では一部でカットバックするロケ映像もあったが、これは全編豪華な部屋の中で展開。調度品などにも凝った壮大な美術セットで耽美的な映像はルキノ・ヴィスコンティの世界を彷彿とさせる。
芸術家である画家クロード・ゾレ (ベンヤミン・クリステンセン )は、美青年ミカエルをモデルにした裸体の神話画の絵で評価され、名声を手に入れる。美青年ミカエルを養子にして寵愛するゾレ。ある時、ザミコフ 侯爵夫人が肖像画を描いて欲しいとやって来て引き受けたが、ゾレは彼女の目がなかなか描けない。しかし、ミカエルが肖像画の目を描いて完成させる。目を描けるかどうかが、女性に興味があるかどうかということなのか。侯爵夫人はミカエルを誘惑し、ミカエルはゾレの側にいなくなり、侯爵夫人との愛に夢中になる。ゾレは孤独のうちに新作の絵を完成させ、豪華な部屋に大勢の人々が祝福のために集まるのだが、最愛の人、ミカエルは彼のそばにいない。
ゾレが最後に完成させた絵は、孤独な自らの姿そのもの。絵=芸術とともにあり、愛に寛容なゾレの人生と放蕩な愛に生きた天使ミカエル。無声映画ながら、『あるじ』よりも説明の文章が少なく、役者のアップの表情などトーキー映画のように映像で物語を演出している。男性同士の寵愛も描いた本作は、当時としてはセンセーショナルだったのではないか。
家庭内の小市民的室内劇を描いた『あるじ』、豪邸内での芸術家の愛と孤独を描いた『ミカエル』、映像的な実験精神あふれる『吸血鬼』など、初期作品でもそれぞれの題材ごとに映像演出は違っており、工夫を凝らしているドライヤー。孤高の芸術家というよりは職人監督でもあったように思う。
1924年製作/95分/ドイツ
原題:Michael
配給:ザジフィルムズ
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー
原作:ヘアマン・バング
撮影:カール・フロイント、ルドルフ・マテ
美術:フーゴー・ヘーリング
キャスト:ベンヤミン・クリステンセン、ウォルター・スレザッ
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