増村保造の戦争映画の傑作『赤い天使』

©KADOKAWA1966

暴力と生と死、エロスとタナトス。凄まじい映画だ。増村保造の強烈な情念の世界が戦場という激烈な場で性と死を重ねて凝縮させていく。軍医と従軍看護婦という関係を使って、死の間際での性愛の世界を描いて見せた傑作。「大映4K映画祭」で観る。こういう日本映画の埋もれた作品をどんどん観られるようにして欲しいものだ。

次々と生死を選別する軍医の岡部、芦田伸介。手や足を次々と切断する音、麻酔薬もなく痛みで泣き叫ぶ負傷兵たちの阿鼻叫喚の手術シーン。切断された足や手の山。血の海。まさに異常な肉体切断の戦場だ。

若尾文子扮する従軍看護婦の西さくらは、陸軍病院の病室で兵士たちに犯され、その事実を告げたことで最前線に送り出されることになった兵士（千波丈太郎）。戦場で瀕死の彼と再会し、命を救おうと輸血を軍医に頼むが、結局は死なせてしまう。そして両手を切断して手を使えない負傷兵（川津祐介）の性的悩みに答えようと看護するが、そんな彼も自殺に追い込んでしまう。二人も殺してしてしまったと悔やむ西だったが、父に似ている岡部軍医のことを好きになり、彼の元を離れたくないと最前線へ。モルヒネを打って、人間性を失っていた岡部軍医を、縛り付けてモルヒネ中毒から救い、女として抱いてもらうのだった・・・。西さくらという看護婦のホスピタル精神はやや過剰だが、それよりも人間性を奪われる戦争の過酷さがなまなましい。

中国軍に包囲され絶体絶命の砲火が迫る中で、最前線で愛する男と女の滑稽ともいえる赤裸々な姿が描かれる。薄いカーテン越しに裸で絡まる男女、縛られて悶え狂う軍医、あるいは軍服を着て上官を演じてみせる若尾文子(コスプレ？)。狂気の世界で剥き出しの人間が描かれるところが凄い。

1966年製作／95分／R／日本
原題：Red Angel
配給：大映

監督：増村保造
脚色：笠原良三
原作：有馬頼義
企画：久保寺生郎
撮影：小林節雄
美術：下河原友雄
音楽：池野成
録音：飛田喜美雄
照明：泉正蔵
編集：中静達治
キャスト：若尾文子、芦田伸介、川津祐介、赤木蘭子、池上綾子、千波丈太郎