しゃべるゴミ箱の悲劇
3日前のこと。娘の鼻水が止まらなくなった。熱はなく、またいつもの鼻風邪だと思い、朝、幼稚園に連絡して休むことにした。娘はいつも通り元気に遊んでいたので、私はその間に洗濯物をした。
洗濯物を干したあと、娘のいる部屋へ入った。すると床に鼻紙の花が満開だった。白いティッシュが丸められ、あちこちに転がっていたのである。
「なにやってんの?ゴミだらけじゃん、ちゃんと捨てて」
「だって鼻が出る」
寝癖のままティッシュで鼻を拭きながら娘は答えた。間の抜けた顔を見て、私は思った。鼻水を拭うことに気力を奪われてゴミ箱にゴミを捨てるのが億劫になったんだなと。ここで私がゴミを拾ってしまったら、延々と拾い続けることになる。それは困る。
「お母さんが新しいゴミ箱作ってあげるよ」
「ゴミ箱できるの?」
私は捨てる予定だったダンボールを組み直してガムテープで止め、小さなゴミ箱を作った。
「ほらできたよ、ここに顔を書いてごらん」
「やったーー!」
娘は喜んで即席のゴミ箱にマジックで顔を書いた。
これは私の作戦だった。ゴミ箱に顔を書けば愛着が湧いて、ゴミを捨てたくなるはず。私がゴミを拾わなくても、娘が自分で処分してくれるだろう。それに娘の教育にもなる。これにて一件落着。
「ね、これしゃべるん?しゃべるん?」
「しゃべるよー!」
娘はテンションMAX。床に落ちている鼻紙をゴミ箱へ入れた。
やった!作戦通りだ!ここは娘に任せて残りの家事をしよう。そう思ってその場を離れようとしたとき、鬼のような形相で娘が私を睨んだ。
「しゃべらん!しゃべらんよ!しゃべって!」
「え?お母さんが?」
「お母さんじゃない、ゴミ箱しゃべって!」
どうやら私にゴミ箱のセリフを言ってほしかったらしい。
「モグモグモグおいしいな」
「アハハハハ、しゃべって」
娘は鼻紙をまた入れた。
「モグモグモグおいしい」
「これ、はなみずだよ?おいしいの?」
「ゴミ箱だからゴミは全部おいしいよ」
「はい、いれたよ、しゃべって」
「モグモグモグ」
「べつのことしゃべって!はい!」
「これは甘い、モグモグ」
(こんなことしてたら家事が進まない)
「もうこれで終わりだよ。ゴミ箱さんお腹いっぱい。」
「アハハハハ、まだあるよー!はい!」
「お腹いっぱいなんだよ」
「アハハハハ!しゃべって!はい!」
娘は私が困った顔をするのが面白かったのか、次から次へとゴミを拾ってきた。
こうして私は部屋中のすべての鼻紙とゴミがなくなるまでセリフを言い続ける羽目になった。そして、その日は一日中、ゴミが発生するたびに家事の途中だろうがなんだろうが、
「おかあさぁーーーーん!ゴミ!」
と呼ばれ、しゃべるゴミ箱を要求された。最悪だった。
娘の教育になると思ったのに、逆に私が立派なしゃべるゴミ箱になるよう娘から教育されたのである(笑)
なんという喜劇、いや悲劇だ…。
最後になんちゃって川柳