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9. リハビリ

1)歩行リハビリ

夫は術後、最初は順調にICUそしてナースステーション最寄りの部屋と移動していきました。ICUを出ると早速、歩行訓練も始まり、病棟廊下を歩いたりし始めました。

心臓や大動脈など内部の痛みは感じないものの、胸骨を正中切開し、ワイヤーで止めて、縫合してあるので、骨折級の痛みは術後に残っています。鎮痛剤や睡眠薬を頭がぼーっとするから…と嫌がり、ほとんど使いませんでした。痛みはがまんしなくていいんだよと、看護師さんも私も説得しましたが、頑なに拒否していました。胸の傷の影響もあり、痰が絡むのを切れないのがとにかくつらかったそうです。

入院中は何度も時間を聞いたり、ちょっとぼんやししていて、携帯すらいらないから持って帰ってくれと言う夫。このままだったらどうしよう…もしや心肺を止めた影響で脳が一時的に虚血状態になって高次機能障害になったのでは…と一抹の不安がよぎりました。(最終的には無事退院し、 ノーマルな状態に戻りました。)


2)呼吸器リハビリ

手術前に売店でそろえておくものの1つに呼吸練習を行う装置がありました。練習しておくように言われましたが、術前は「何これ、おもちゃみたい、楽勝楽勝、これがリハビリになるわけ?」と笑っていた私達夫婦でした。

が、術後は呼吸機能が落ち、この装置が楽勝になったのは退院して帰宅してからでした。

使用したのはこちらのコーチ2というものでした。


インセンティブ・スパイロメーターは、全身麻酔の術前/術後に繰り返し呼吸練習(深呼吸)を行うことで気道 の開存性が保たれ、喀痰の排出の改善、換気不全や無気肺の予防に有効です。 米国呼吸ケア学会(AARC)ガイドラインによると、特に無気肺が進むような状況の場合(上腹部手術、胸部 外科手術、慢性閉塞性肺疾患のある患者の手術)や、四肢麻痺や横隔膜の機能不全などによる拘束性肺障害の 場合に適応され、無気肺の予防や改善を目的に行い、吸気筋力の改善などにも用います。

3)心房細動

歩行リハも始まり、順調な回復を見せているかと思いきや、心房細動が出てしまい、歩行訓練は中止となりました。ナースステーション前の部屋も卒業し、一般病棟に戻ったのですが、抗不整脈薬を飲んでもなかなかよくなりません。結局、麻酔をかけて電気的除細動療法を行いました。車いすで病室に戻ってきた夫は、麻酔で寝ていたところをバンっと電気ショックで目が覚めたと言っていました。が、まだ麻酔がかかっているところを無理矢理起こされただけの状態だったようで、この時の会話は何も覚えていないそうでした。私が帰宅した後、義妹と両親がお見舞いに来てくれたようなのですが、夫がその時に、上の義妹と下の義妹を間違えたので、このままでは仕事に戻れないのではないか、大丈夫なのかと相当実家を慌てさせたようでした。

4)鍼灸師として

さて私は鍼灸師として以前、とある大学病院の循環器呼吸器内科の病棟で修行をしていました。


循環器の術後、肺がんの術後や化学療法中の方の体調を整えるべく、朝晩2回、医師からの依頼のあった患者さんのベッドを師匠と回っていました。非常に特殊な環境であったと思います。術後や治療中なので仕方がないと思われがちな、食べる、寝る、出すの基本のQOLの向上、痛みやしびれの改善などにアプローチしていました。患者さんのの愁訴に何かしらのことを丁寧に対応するということが非常に大切なことだと感じて心を尽くして、仕事をしていました。

けれども今回家族に対しては、何もする気になりませんでした。一番には主治医との関係性があり、余計なことはしたくないと思いました。それに遺伝子による疾患ですし、外科手術が最有効です。それでも術後の回復期には、私が学んだことは有効なはずではありました。もちろんの鍼灸師が病棟を回ってきてくれるなら、大歓迎でしたが、そういう病院ではなく、私も妻と母業で精一杯で鍼灸をする余裕はありませんでした。

そもそも鍼灸師としてのスタンスは、現代の医療が優先、できないところを補い合うというものです。そのためには医療のこと全般や他職種のお仕事をよく理解することだと思っています。ただ、呼吸器の訓練も含め、術後の総合的なリハビリの重要性は痛感し、鍼灸だけでなく、改めてもっと広い視野から学びたいと思わされました。

つづきます