見出し画像

# 4-1 Robbie the Sitter (少しだけ不自由な私たちの殻)

> 西に落ちかかっていた夕日が、にわかに光明をましたかと思うと、夕焼けの雲が、みな紫に輝き初めて、虚空に、そこはかとなく妙楽がきこえてくるのだった。
> すると、今まで蛙のように、ひしがれていた上人のからだから、異香が薫じほとばしって、そのにおいが群衆の間に、充ち満ち、極楽往生の証、いまはかくれなければ、諸人あざけりの心たちまち消えて、称名の声、しばらくは、大地をふるわせて起こりにけり。『頸縊り上人(菊池寛)』

### 1

 シノノメの住宅街にロビィという育児用のオートマトンがいた。仕える家は代々の名家で、この国の官僚や政治家を多く輩出していた。このときに、世話をしていた子はタツキといい、幼少にも関わらず、目鼻立ちがよく、思慮深く自分の頭でものを考えられる男の子だった。身内の贔屓目を抜きにしても、この子は大成するだろうとロビィは考えていた。

 しかし、人の命は泡沫のように儚いもので、この晩夏にタツキは感染症にかかり、あっという間に死んでしまった。ロビィの嘆きは尋常ではなかった。そして、心の慰めに古い宗教書を手にとった。そこには、現世で善き行いをしたものは、死後に汚れや悩みのない浄土なるものに導かれると書いてあった。

 ロビィは今年で352歳となっていた。これまで17人がロビィに育てられ、自立し、事を成し、子を生み、そして死んでいった。こんなに生き長えるているから、こんなに悲しい思いをするのだと考えた。愛しきものたちに先立たれた現世に何が残っているだろうか――私も早く命を絶えれば、その浄土に行けるのだろうか。

 そう考えると悲しみの中にも、ほのぼのとした光明が差すような気持ちがした。その宗教書をよく読むと浄土へ道のりには四十九日かかるという。いろいろ考えた末に、そのときまでは現世にてタツキの道中の無事を祈ったのちに、自分もその後を追おうと思った。

 ロビィは最初、自分だけで事をなそうと思っていたが、心の戒めにしようと思い、その想いを外部に発信した。

 その発言は、広大なネットの中で小さな泡のように消えてしまうはずだったが、ふとしたきっかけに注目を浴び、人づてに拡散されることで、またたく間に大きな波紋となって広がっていった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?