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ジーンズの洗い加工を解説

KENZOです。
ジーンズといえばリジット(ノリおとししていないもの)を思い浮かべる人もいれば、すでに加工された状態のものを想像する人もいるでしょう。

加工されたジーンズは縫製直後から加工が施されているわけではありません。縫製して、ジーンズの形になったものを、「洗う」「脱色する」「破る」などの手を加えて加工されています。

今回その中でも「洗い加工」と呼ばれるものについてです。実は「洗い加工」は日本から始まった作業だったんです。

日本人のジーンズ事情

そこには戦後の日本の衣類事情がありました。戦後の日本では、アメリカ軍基地からの放出品ジーンズが広まりました。放出品ジーンズは、当然誰かが穿いていたものなので、穿き古されていたり、洗濯されて色落ちしていたり、やわらかい風合いであったりと古着特有の経年変化をしていました。

政府の方針により新品のジーンズを輸入できなかった日本に取って、ジーンズとはソフトで穿き心地が良いというイメージがあったのです。

ところが、1970年代に入り日本製のジーンズが生産され出したとき、新品ジーンズを穿いた時本人は衝撃を受けました。ソフトで穿き心地が良いというイメージは一蹴されました。

とにかく硬い。
とにかく色落ち色移りしやすい。
洗った後の異常に縮む。

今でこそジーンズの常識と思われることばかりですが、古着のジーンズしか穿いたことのない日本人にとっては「なんやこの不良品!穿けるかい!」と思ったかもしれません。

ジーンズ発祥の地アメリカでは、当時でもジーンズ100年以上の歴史があるので、「ジーンズはそういうものだ」とごく普通に受け入れられていたのでしょう。

穿き心地を求めた日本人

日本人は新品ジーンズのゴワついた硬い肌触りを嫌い、ジーンズ専売店の声にも押され「洗い加工」を研究しました。

まず行われたのは「水洗い」。
水洗いには3つの効果が期待できます。

  • ジーンズ表面に残る未染着のインディゴを落とす

  • ジーンズの糊を落とす

  • 縮ませる

販売前に未染着のインディゴを落とし色移りを防止、糊を落とし穿き心地をソフトに、縮ませることで購入後の変化を最小限に。こうすることでジーンズの問題点が見事に解決されたのです。

今となっては「洗い加工」は単なる「水洗い」ではなく、ファッション性を向上させる「特殊加工」へと発展を遂げています。

ジーンズの洗い加工の基本

ジーンズの洗い加工には、脱色、ストーンウォッシュ、ダメージなどがあるが、基本的には、適当な濃度まで色を落とす「脱色」とヒゲやハチノスのような「アタリ」を出すことです。

脱色

ジーンズはインディゴ染色により濃紺色をしています。そこから脱色するには酸化剤や還元剤などの脱色剤を用います。

ジーンズを脱色する方法としては「酸化」と「還元」がありますが、基本的には「酸化」によりインディゴ染料を分解する方法が使われます。使用する脱色剤の濃度や時間を調整することで色の濃淡を調整しています。

アタリ

アタリの原理は、デニムの糸の表面を「削る」ことです。デニムの経糸(たていと)は中白といい、表面は紺ですが中心部は染まっていない白い部分が存在します。日常でジーンズを穿いていると、よく擦れる場所は白っぽく色が落ちてきますが、これがアタリです。加工ではヤスリで擦ったり、石と一緒に洗ったりしてアタリをつけています。

洗い加工工程

洗い加工は、「前工程」「洗い工程」「後工程」とわけられます。それぞれどのような加工があるのか示していきます。

前工程

  • ヒゲ加工
    ジーンズの太もも付け根部分のシワです。猫などの動物のヒゲのように見えることから「ヒゲ」と呼ばれます。
    加工ではヒゲに合わせた凹凸のある台に、ジーンズを穿かせて表面をヤスリでこすります。
    膝裏にできるシワを「ハチノス」と呼びますが、これもヒゲと同じ加工法が用いられます。

  • シェービング
    膝、尻、太もも、腰回りなどに色落ちによる古着感を出す加工です。
    シェービング(=削る)はサンドペーパーやブラシなどで生地が白くなるまでこすります。このとき、中白の白の部分を出すわけですが、糸を切ってしまわないように注意が必要です。
    凹凸台は使わず平坦な台で行うため立体感は得られにくい。

  • サンドブラスト
    砂を高圧噴射装置で吹き付けて、表面の染料を削ることで色の濃度を変化させる加工です。吹き付ける砂の種類や速度を変えることで風合いを変化させています。

  • ダメージ加工
    穴をあけたり、糸を切ったり、生地を破ったり、より古着感を演出するための加工です。グラインダーやサンダーなど金属加工用の研磨道具が使われます。また、レーザー加工機により部分的な糸や生地のカットも行われます。

  • ピン打ち
    シワを出したい部分にピンを打ち、洗い加工を施し、洗い加工後にピンを外します。ピンを打つことで部分的に生地に凹凸ができます。その凸の部分が洗い加工時の摩擦により色が落ちる仕組みです。立体的な色落ちが期待できます。

  • レーザー加工
    数百度にも及ぶレーザー光線により、生地表面を熱分解する加工法です。コンピューターによりプログラミングしておくことで正確に同じ加工を繰り返せるメリットがあり再現性が高いです。

  • インクジェット加工
    大型のプリンタでプリントを行う加工です。

洗い工程

  • 水洗い
    50℃〜80℃のお湯で10分〜60分程度加工し、ジーンズの糊を落とします。水洗いを行うことで3つのメリットがあります。
    糊が落ちて柔らかくなる。未染着のインディゴを落として色移りを防ぐ。できるだけ縮ませて購入後の変化を最小限に抑える。
    また水洗いは、ほかの洗い加工の前処理としても重要な工程です。

  • ストーンウォッシュ
    洗い加工時に石を混ぜて洗う方法です。石による摩擦で生地表面を物理的に削られ色落ちします。
    ストーンウォッシュに用いられる石には、軽石、人工石、ゴムボールなどがあります。ゴルフボールを入れて洗ったこともあるとかないとか。

  • バイオウォッシュ
    セルロースを分解する酵素である「セルラーゼ」により、ジーンズの線維の一部を分解してその表面のインディゴ染料を落とす加工です。
    石と併用するバイオストーンという方法もあります。

  • フェード、ブリーチ
    中色をフェード、淡色をブリーチといいます。
    インディゴ染料は洗濯することで徐々にインディゴ粒子が脱落し色落ちします。また、着用時の日光(紫外線)により分解されることでも色落ちします。この特性を利用して、次亜塩素酸ソーダなどの酸化剤を使ってジーンズの脱色を人工的に行う加工です。

  • ケミカルウォッシュ
    洗い加工の中でも唯一水を使用しない、使用しても少量で行う加工で、ジーンズの色を全体的に薄くムラ状にする加工です。

  • トッピング オーバーダイ
    今までの加工は色落ちさせる加工でしたが、トッピングはインディゴとは異なる色味を加えて新たな色相を作り出す加工です。

  • インクジェット加工
    大型のプリンタでプリントを行う加工です。

  • 製品染め
    トッピング、オーバーダイはインディゴ染めのジーンズに異なる色を足すことで色合いを変化させました。製品染めは、白または生成りの生地などで縫製されたジーンズを染色する方法です。ジーンズの形で染めるということです。

後工程

  • ソーピング
    通常の水洗いでは落ちにくい不要な成分を洗浄することです。出荷後の色の変化や生地の劣化を防ぐために行われます。

  • 乾燥
    水洗機とセットで必要なのが乾燥機です。水洗いは、揉み洗いしたあと、乾燥機で揉みながら乾燥させることが基本です。乾燥機で乾燥させることで風合いがよく、縮まないジーンズに仕上がり消費者の手へと渡ります。
    また、乾燥機にはシワとりの効果もありキレイな仕上がりが期待できます。

  • 樹脂加工
    防シワ、寸法安定、プリーツ保持などの目的のために行われる加工です。

  • プレス
    ジーンズは縫製後に5~10本をヒモで束ねて移動されます。そのためジーンズに強いシワが入ってしまいます。そのシワを取り除くのがプレスです。手アイロンやフラットプレス、立体プレスなどさまざまなプレス方法があります。ジーンズでは手アイロンと立体プレスによる仕上げがほとんどです。

  • 検針・検品
    縫製の仕上がり段階でも行われる作業ですが、洗い加工のあとも同じように確認します。

複合加工

これまでにいろんな洗い加工を解説してきましたが、それらは単独ではなく複数の加工を組み合わせることが多くなっています。

リジットジーンズには育てる楽しさがありますが、加工ジーンズには購入時に1番良い状態で穿けるのも加工技術の魅力です。

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