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これを僕らは夜明けと呼ぶ

「夜明けやん!」
 それぞれに等しく昇る太陽を、私たちは別の窓から眺めていた。時刻は午前五時過ぎ。昨晩二十三時からはじまった六時間にわたるグループ通話のなかで、私たちは日付変更線を越え、ついには夜と朝の境界線まで越えていたのだ。

 新型コロナウイルスの影響により大学の開始が遅れ、もはや春ですらないほど延びた春休みで、私たちはお互いの顔を忘れかけていた。
 コロナ休みは虚無だ。暇だし寂しいしすることもない。惰性のように弄っていたSNSで、同じサークルの友人数人にグループ通話を提案してみたのも、暇つぶしの延長のような感覚だった。
 提案は案外すんなりと受け入れられ、六人のメンバーから成る「テレワーク」というLINEグループが作られた。「グループ通話」より「テレワーク」の方が「語感がかっこいいから」という理由だけでその名前をつけた。
 全員がよく話す関係であるということもあり、会話は想像の十倍は盛り上がった。とはいえ、盛り上がったのは深夜三時頃からで、それまでは各々が好きなことをしていた。その時間はとても心地がよかった。スピーカー越しに聞こえる友人たちの生活音や、ゲーム中に漏れたらしい誰にも向けられていない独り言に、何故か安心したのを覚えている。
 それが誰からともなく会話になり、私たちは手を止め互いに意識を向け合った。近況報告や、それぞれの小中高の頃の思い出話に花を咲かせた。

 そうして二時間ほど経ち、ふと見遣った窓の外の変化に気が付いた。黒で塗り潰されていた空の彩度が上がっていたのである。私は慌てて「夜が明けそう」と伝えた。「ほんまや」という呟きが聞こえる。私たちはそれぞれの場所で、夜だったはずの空が朝に変わりゆく様を眺めていた。

 実は、グループ通話を行うのは人生で初めてのことだった。朝になっても誰かが居る。空が綺麗だったから、というよりは、その温もりを忘れたくないから写真を撮っただけだ。
 後から見返すと、画質も天候も悪く綺麗な写真だとは思わない。季節も、時間帯もよく分からない。しかし、私はこれを夜明けと呼ぶのだ。

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