2024年3月自選

#tanka  

へんなメンバーの飲み会だったけど君のことしか思い出せない

嘘なんかついたことない プロローグからクレジットまで好きだった

四月から社会人になる君のその正当性がとても寂しい

異常ではないですという匿名の回答を見て安堵している

言いたいことはなんでも言って、泣かないで、電話だから、電車を切るね

ぼくは透明人間かもしれない/君はやさしい博愛主義者

それ以外ほんとうはどうだっていい(君の現在地は晴れている)



 3月は、もうすぐ卒業する四回生の後輩と飲みに行くことが多かった。2月から付き合いはじめた恋人とも頻繁に会っていた。誕生日には、Aから連絡がきた。もちろん嬉しかった。大学を卒業した友達のなかで、祝ってくれたのはAだけだったから。
 
 四回生の卒業式は見に行かなかった。理由はたくさんあるし、ひとつもない。「留年生が卒業証書を受け取るところが見たいな〜」と鍵垢でツイートしたら、フォロワーがこっそり写真を撮って送ってくれた。やさしい。
 Aが下宿先の部屋を借りているのは卒業式までだと前に聞いていたのを思い出した。Aは転勤族だから、引っ越しは慣れているのだろう。去っていくことも。
 卒業式の翌日は、恋人と恋人の友達カップル(知り合い)と飲みに行った。早々に酔いが回っていたから、何を話していたかはほとんど覚えていない。途中で、なんとなく携帯を確認した。通知音が聞こえたわけではなかったのに、不在着信がきていた。1分前に、Aから。私はすぐに席を外し、トイレに行って電話をかけ直した。地下の居酒屋で電波が悪かったから、走って地上に出た。
 
 言葉を100そのまま受け取る悪癖が、私にはある。付き合ってみようと思ったのは、恋人が「Aのことを好きでもいいから」と言ったからだった。私はそれを100そのまま受け取り、無理やり忘れなくてもいいんだ、と安心した。
 ペット・セメタリー2の中で、エドワード・ファーロング演じる主人公は、母を亡くしたことについて「でもいつかはきっと立ち直れるね」と言われて「忘れることなんてできないよ」と返す。
 Aを忘れることなんてできない。他に好きな人なんてできるわけがない。Aを脳みその奥へ押しやって過去形にするのは、自分の一部を殺すことと同じだから。じゃあもう孤独死だね。うんそうなんです。
 だから、恋人の言葉は眩しかった。Aのことを忘れないまま、他の人を好きになるチャンスをもらった、と思った。なんて心の広い人なんだ! 神さまか?(実際に、お風呂上がりの恋人は仏像に見える)
 愚かね。

 電話は、30分程度で切り上げた。恋人には怒られてしまった。Aと電話をしたことではなく、場の空気が、私の身勝手な行動で壊れてしまったという。
 
 そのとき、Aは駅にいるようだった。新幹線を待っていて、このあとそれに乗って関東へ帰るのだと言った。春からの仕事のことを聞いた。大まかには知っていたけれど、本人の口から聞けてよかった。
 簡単には会えない距離なのに、Aは何度も「また会おう」と言った。私は何度も頷いて、学部時代のことを思い出した。
 別れ際、いつもAは「じゃあね」と言う人だった。明日も会えるのに、明日は会えないみたいな言い方をする。Aは無自覚だったらしく「人に言われたのもはじめて」と言っていた。
 それから、卒業式に来てくれると思っていた、と言われた。なんと返したかは忘れてしまった。
 1回生の頃からずっと、Aは私の話をよく聞いてくれていた。Aのことを好きすぎるがあまり(しかし、それは自分を好きなことと同じ気持ちだった)おそらく脳みそがおかしくなってしまった時期もあって、共通の友人のなかには「春ちゃんがAのことを好きなのをやめられないのはわかるけど、Aが可哀想になってきた」と言う人もいた。Aの些細な言動ひとつひとつに丁寧に落ち込んだり、元気をもらったりしていた。
 私は「大学院、最後まで頑張ってみる」と言った。去年、大学院を辞めようかと思う、とAに話したとき、Aはそれを五月病だと返した。Aは「よかった」と言った。本当に弾んだ声に聞こえた。
 あとは、自分たちが書いた小説や近況について話した。私は泣きじゃくりながら、Aのことが本当に好きで、1回生の夏から「進級しても卒業しても仲良くしたい」と思っていることを打ち明けた。過去に何度か似たようなことは言ったかもしれない。Aとは「またね」と言って電話を切った。

 簡単に会えない距離だと感じるのは、学校の行事や親以外と旅行へ行ったことがないからだろうか。関東なんてすぐだよ、と言う人もいる。LINE以外のSNSはブロックされたまま、もうすぐ梅雨になって、夏休みが来る。

 1回生の夏、同じサークルの男友達から「放課後、ラーメンを食べながらAに相談に乗ってもらった」と聞いて、私はそれが無性に羨ましかったのを覚えている。
 7月に、文芸学科の10人ほどでAの家でたこ焼きパーティーをした。ライングループの名前は「パーティー」だった。ねるねるねるね入のたこ焼きを誰かが作って、みんなで少しずつ食べた。地獄の味がした。神というあだ名の友達の顔が苦痛に歪んでいた。これから先、このメンバーで4年間を過ごすんだ……と思っていたからか、私はいまだにこの日のことを夢に見る。結局グループは細胞分裂を繰り返し、幻のパーティーメンバーになってしまった。
 8月に、Aから突然連絡がきた。私が好きだと言っていた本のタイトルを教えてほしい、といったような内容だった。Aは私の、メンヘラ神に対する信仰も肯定した。メンヘラリティ・スカイの電子版を買ってくれた。好きな映画や小説の感性も、嫌いな人間のタイプも、行間も合っていて、いつの間にか、Aと私は同一人物のような存在なのだと感じるようになっていた。
 単純に、Aの幅広い趣味の中に、私のサブカルチックな嗜好も含まれていただけなのにね。



 A編はいったん終わります。また書きたくなったら、芸大の学部時代の話を書光と思います。

・最近(5/17現在)ハマっている曲
 フロントメモリー feat.ACAね/神聖かまってちゃん ←リズムが良すぎる
 キラーボール/ゲスの極み乙女 ←サビが良すぎる
 からだだけの愛/ギリシャラブ ←歌声が良すぎる
 八月の陽炎/マカロニえんぴつ ←歌詞が良すぎる
 愛の点滅/クリープハイプ ←リズムが良すぎる
 ギャルピしかエモくないよ/webnokusoyaro ←歌詞が良すぎる

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