#126 どこでもドア入荷しました
とある世紀の、とある日のこと。
ついに夢にまでみたどこでもドアが22世紀商店から販売が開始されました。
わたしは新聞記者としてこの世紀の発明を記事にしようと22世紀商店の銅鑼衛門さんのもとへ向かった。
22世紀商店社長の銅鑼衛門さんは言います。
「苦節170年、紆余曲折を経てついに販売にこぎつけました」
22世紀商店はこれまで、竹型飛行装置や、翻訳コンニャクなど、画期的な商品を開発してきました。
銅鑼さんは、自身の人生データを猫型ロボットに移植し、人間でありながら身体が機械である唯一無二の存在でもあります。
彼は身体を機械にすることで寿命を飛躍的に伸ばすことに成功し、現在の活動を維持しています。
一般的に人の臓器は約150年で朽ちてしまいます。そのため、天才科学者であった銅鑼さんは、禁忌である機械の身体に挑戦したようです。
この成功により人類により良い生活で出来るように22世紀商店をつくり様々な画期的商品を生み出し販売しています。
今回の発明について、銅鑼さんにどこでもドアの仕組みについて聞いてみました。
「私は、どこでもドアを作るにあたり、大まかに2種類のアプローチを試みました。ひとつめは、ブラックホールを人工的に作り出しホワイトホールから出す方法。二つ目は、人の身体をスキャンし分子レベルまで解析し移動先で再構築する方法」
「今回、成功したのは後者のアプローチです。開発段階で、分子の移動、ウイルスの移動、微生物の移動、昆虫の移動、小動物の移動と、段階的に増やし霊長類の移動に成功しました」
わたしは聞きました。どこでもドアは入口用と出口用の二枚必要なんですか?
「そうです。前者のアプローチでは、どこでもドア内で時空を超えるので1枚で可能ですが、後者では送信用と受信用と2枚の扉が必要になります。」
それでは、転送先に受信用のどこでもドアを設置しなくてはならないのですか?
「そうです。まず、頻繁に行く必要のある場所にドアを設置し、そこに送信用のどこでもドアから転送します」
つまり、ドアノブを触れている時に何処に飛ぶかを意識することで好きな場所に飛べるどこでもドアではないのですね。
「残念ながらそうなります。今回皆様に提供する商品は移動地点Aから移動Bに瞬時に移動できるというものです」
当時の構想とは一部違っていたので残念だったが、それでも充分素晴らしい発明であるこに間違いない。RPGをしたことがある人なら理解できると思うが、セーブポイントに飛ぶことができるあれと同じだ。
セレモニーでは、2元中継を行い三毛猫が移動地点Aから移動地点Bにどこでもドアを通って瞬時に移動する映像が世界に配信された。
価格は破格の金額だったが、飛ぶように売れた。金持ちの人たちが何よりも大事なのは時間なためだ。彼らは文字通りタイムイズマネーの生活を送っている。
つまり、移動時間が人生において一番無駄な時間であり、それが解消されるとあっては破格の金額とはいえ安いものだった。
早速、世界中のセレブたちは、世界中の各所に転送用のどこでもドアを設置し、わずか数秒で世界中の各所に移動できるようになった。
発売から半年が経った頃、わたしは購入者の側近からセレブの生活に変化があったか取材した。
すると側近は不思議なことを言った。
それは、どこでもドアを使用したセレブは間違いなく姿かたちは同じなのだが、どこか普段の彼らと異なり違う人に思えるということだった。
わたしは不思議に思い、銅鑼氏にその旨を伝えた。
銅鑼氏はその問い合わせに、分子レベルまで同じく再構築しているので間違いありませんと言った。
側近は自分がどこでもドアを使用したことがないので確証もなくただの独り言だと思ってくれと言っていた。
しかし、それからさらに半年過ぎ、発売から1年経った頃、側近から連絡があった。なんでも、この側近にはどこでもドアを使用したセレブが明らかに変わってしまったというのだ。
それは、姿かたちは同じでも、日常にある些細な記憶が失われ、どこでもドアを使用前と比べると明らかに個性が薄れてしまったという。
例えば、この側近のセレブは異常にカレーが好きだった。カレーを食べるためだけにプライベートジェットでインドに行っていたが、どこでもドアで、数回、インドに行き来すると、いつしかカレーに興味がなくなってしまった。
当初は、人の選好などは、一過性のものなのでそういうこともあるのだろうと思われたが、使用頻度が増すごとにそれらは増えていったので、側近は間違いないと感じたようだ。
それ以外にも、セレブはNBAを好んで観戦していたが、どこでもドアの
使用回数を重ねるごとにNBAに熱狂しなくなった。
この側近の情報が正しいとすると、どこでもドアの使用者は使用するたびに初期化され、それまで蓄積していたユニークな情報が消去されることになる。
つまり初期データに残っている情報は転送されるが、一時記憶のように浅い記憶領域のデータは、消去されてしまう。そして、それを繰り返すことでこれまであったデータは不安定になりいつしか消えてなくなってしまう。
この推測が正しいのなら、どこでもドアはとても恐ろしいアイテムだ。
その真意を確かめるため、わたしは22世紀商店に向かった。
銅鑼衛門氏は社長室にわたしを招き入れてくれた。
「銅鑼さん、どこでもドアによって起きる事象について、どのようにお考えですか」
単刀直入にわたしは疑問を投げかけてみた。
「あなたの言うことは興味深かった。わたしも、販売に先立って何人もの人をどこでもドアで転送をしてみましたが、そのような事象は起こらなかった。もしかしたら、今回起こったことは偶然で他の要因が考えられるのではないでしょうか」
「いやでもですね、側近の人は明らかに別人のように変わっていったと証言しています。ほかの使用者を調べてみれば偶然かどうかわかるのではないですか?」
「そのような考えもありますね。ですが、どこでもドアは早1万3千台以上の受注を受けています。そのような状況で、どこでもドアを待っている人に生産を見合わせるとはいえませんよ。」
「あなたは人の言う証言を信じるよりもまず自分の身で経験し、それで私に話をした方が良いと思います。ためしに、ブラジルのリオデジャネイロまで行ってみてください」
そういうと、銅鑼衛門氏はわたしを、どこでもドアに導いた。
「お話は、リオから戻ってからまた伺いますので・・・」
どこでもドアが開き、奥に真っ暗な闇がある。
わたしはその先に足をかけたとき、銅鑼氏がそっと背中を押した。
「さあ、いってらっしゃい」
ガチャっと音が鳴りどこでもドアは閉じられた。わたしは真っ暗な空間に立っている。
遠くでピ・ピ・ピと音が聞こえた。
転送モード開始・・・・。
その直後、全身にGがかかった。同時に頭部から真っ赤なレーザーが下りてくる。
じゅっ、という肉の焦げる匂いがして目の前が真っ暗になった。
リオデジャネイロのある場所にあるどこでもドアが開く。
ガチャ。
「あれ、わたしは何しにここに来たんだろう」
おわり
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ぽぴい氏さん画像を使用させていただきました。
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