六彦

リクヒコと申します。詩や考えたことなど、文章を中心とした胡乱な創作をしています。

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  • 六彦の詩まとめ

最近の記事

パンクロック

パンクロックは叫ぶものだと、ある小説家が言った。小さい声でも、切実な思いみたいなものを叫んでいるんだと。 自分には障害があった。それ以外は恵まれていたけど、そのたった一つのために、人と歩調を合わせられなくて変な目で見られる学生時代だった。 そんな自分をパンクロックは救ってくれた。 どうしようもない現実へのジレンマに悶えるとき、叫ぶ声は寄り添ってくれた。 怒ることを許してくれた。 だから自分もパンクロックをやりたい。 思いを叫びたい。 なのにどうしてここにいるんだろう。 燻った

    • 詩「罪」

      十字架が目に染みて、思わず膝をつく キリストを殺したことを、今や誰が許してくれようか 私の罪のために、ベツレヘムの星は死んでしまった 私の罪は母の罪 私の悪は父の悪 楽観により、全ての苦しみが粘液と共に落とされたのだ そのことになぜ手錠がかからない? 臍の緒から与えられた罪を、私は抱卵して大きくなり 罪を飼う獣になった どうか檻に入れてくれ 君たちの共同幻想を裂く前に 悲しみが牙を剥く前に どうか歴史としてくれ この身焼かれ果てるそのときに 罪の獣は新たなキリストとなり その

      • これであなたもゴッホになれる

        なぜ、人間は自分以外の何者にもなれず、理想を実現できず死んでいくのか? なぜ私はゴッホでも太宰治でもないのか? それはランダム性が強いからだ。 人間の生まれる環境、生まれ持った特性、育つ環境のすべてはランダムで、自他の行動によっても変化する。 人間の人生を構成する要因はあまりにも複雑かつ膨大でランダム性に満ちており、予測もコントロールもできない。 「努力すれば夢は叶う」なんて大雑把すぎる理論では、とても太刀打ちできそうにない。 カオス理論というのがある。 初期条件が僅かでも違

        • 鼻の手術後、回復日記2

          この日記は、鼻中隔湾曲症の手術を終えてから回復に至るまでを記録するものだ。 健康な人間が自主的に手術を受けたらどうなるのか? 鼻の手術後はどんな風になるのか。 そんな気になる方々の参考になれば幸いだ。 今回は退院後数日間の痛みと食事について記す。 さて、退屈な入院も終わり、ようやく家に帰ることができた。 病院という非日常から日常に戻ると、色々と不便なことが出てきた。 まずは食事だ。 味がわからない状態で3食食事をするというのは、なかなか億劫になるものだった。 努めていつも

        パンクロック

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        • 13本

        記事

          鼻の手術後、回復日記1

          この日記は、鼻中隔湾曲症の手術を終えてから回復に至るまでを記録するものだ。 健康な人間が自主的に手術を受けたらどうなるのか? 鼻の手術後はどんな風になるのか。 そんな気になる方々の参考になれば幸いだ。 今回は手術直後の尿と食事と退屈について書き残す。 さて、手術が終わった。 全身麻酔で二度と目覚めない…なんてことはなく、最後の記憶は手術台の上で脈を取られたところで、目が覚めるとグデングデンの状態で個室のベッドにいた。 真っ先に思ったのは「トイレ行きたい」だった。 本来、ト

          鼻の手術後、回復日記1

          余命宣告、拡散希望

          手術をすることになった。 全身麻酔だ。 難しい病気の手術というわけではなくて、ただの鼻詰まりの治療なのだけど、全身麻酔だから戻ってこれずに終わる可能性だってわずかにある。 普段見る景色が、家族が、猫が、これで最後かもしれないと薄っすら思う。 もしもの予感ですら、こうなのだ。 もし本当に余命宣告されたりしたら、どうするだろう。 私は自分が生きた痕跡を遺したい。 創作をする人間として死にたい。 だけど、できるだろうか? 「余命宣告された芸術家」として自分をマーケティングすること

          余命宣告、拡散希望

          短歌「君死に給え」

          死ぬ勇気ない僕も君も恥晒しもっと頭を垂れていろ 橙の花飛び散らせ金木犀見苦しくなく死体の鑑 玉の緒よ耐えよと息を吹きかけた大人しくしろ抵抗するな 自殺企図希死念慮なぜ四字熟語かっこいいからみんなが使う 首を吊れる日を数え待つアドベントカレンダー開けるとチョコが出る

          短歌「君死に給え」

          詩「デイドリーム」

          眼鏡外すと見えてくる、輪郭をなくした形のない国 デイドリームの世界、紀行 旅人、知らず 猫も兎も似た形 誰も彼もがのっぺらぼう 見えないものだけ見える国 それから、瞬き 知ったものから知らないものへ 瞼の裏から色彩溢れる、レッド、グリーン、ブルー

          詩「デイドリーム」

          詩「焼野原」

          誰も彼もがいいねボタン押したら成功 いいね0は共感性ゼロで無価値で 自分と社会の交点に最大公約数として感動があって なんだかなあと思ってもそこで得られる感想が嬉しくもあり ますます加速するエモーショナル 観測者いてこそ存在する世界の詩 誰も見ないなら存在価値のない駄文だ 価値基準を外注したばかりに他人の目に依存する創作 生前無価値だった僕を拳銃が貫く 観測されなかった名作 振り向かれなかった傑作 あなただけが良いと言ってくれた観測者二人きりの絵画 かくして核弾頭はいいねボ

          詩「焼野原」

          詩「36℃の女」

          結局それがいいんでしょう 所詮あなたは柔和な言葉を使う 「甘やか」とか、極上の形容詞ばかり 海がきれいで、空がきれいで ふたつを繋ぐ君と僕の結んだ手の温度とか そんなことばっかり綴って 「きみ」も「ぼく」も画面の向こうにしかいないのに 詩人はみんなうそつき 言葉の筆をもって現実の背中を均す 日常の些細な感傷、些細な愛らしさ それらを匂い立つ形容詞で飾って 「やわらかに」って、ひらがなの生温さ 心の柔らかいところをくすぐられて 愛撫がそんなに好きですか 綿が詰まった君の詩は

          詩「36℃の女」

          小説「雨はどこにも訪れる」二話

          春、とある小説の賞に応募した作品の第二話です。 一話はこちら --------------------------------- 二話「祝祭と紫陽花」 森を一つ抜けると、レンガ造りの建物が並ぶ、小さな町が見えてくる。 木漏れ日の代わりに落ちてくる雨が、目が覚めるような真っ青な傘を叩いた。 傘を差しているのは、地味な印象のひょろりとした男だった。 男は立ち止まり、登山者のように大きなリュックサックの横ポケットから、透明な袋に入れた地図を取り出した。 「前の村でおじさんが言

          小説「雨はどこにも訪れる」二話

          小説「雨はどこにも訪れる」一話

          春、とある小説の賞に応募した作品です。 勝手に短編連作のオムニバス形式にして、二話書きました。 残念ながら落選しましたが、せっかくなのでnoteに掲載いたします。 --------------------------------- 一話「レモン症候群」 石が敷き詰められた幅の狭い坂道が、ゆるやかにカーブしながら上へ続いていた。 道の両側に並ぶ建物の屋根には、大粒の雨が当たっている。 花屋の屋根を伝って落ちた水が、その下を歩いていた男の真っ青な傘に降り注いだ。 男は少し傘を

          小説「雨はどこにも訪れる」一話

          詩「果つ」

          今日の日はさようなら 明日は花実がつかぬよう 願います咲くよりも枯れ果つのを許して オーダーメイドの救済を発注 普遍的救いたる睡眠 それすら取り上げられるスヌーズ いつになっても呼吸は困難 太陽の視線穿たれ石に口づけ 誰も彼も目玉の矢を手放せよ暗渠に 見るな聞くな孤独の王様 なぜ彼の星をバオバブが殺したか 寒天布団に繁殖する微細の彼らを 気付けば喉元まで這い上がる彼らを 消毒せんと振るう無菌室の使い魔 様を見ろ真白に二度と咲かない この地は永遠に不毛でいてくれ それでやっ

          詩「果つ」

          詩「敵のない朝」

          廃棄区画に朝が来る そこに暮らす捨てられた親子にも 年老いた母親の病んだ泣き言に 腹を立てて追い出した男の 寒々しい無精髭にも 昔は良かったと人の言う 何もかもに大らかな時代があった 権利や自由で縛られることのない その大らかさの犠牲になった まつろえぬ者たちの影 黄色い鳥はここにも来るが ずいぶん痩せているようには思う 男はそれを捕らえて朝食にせんと 捨てられた人間には無理で 鳥は高く飛び去った 朝日に照らされる横顔は克明 痩せた顔立ちは昔の面影もなくなり 貧しさと焦

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          詩「敵のない朝」

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          冒頭小説「コチニールレッドの肖像」

          人間は柔らかすぎる。だから嫌いだ。 友人はこのように断言した。 日ごと、秒ごとに移ろう人間の心の有り様を、彼女は全般的に嫌っていた。 確かなものが欲しいのだと。 彼女がそう言うのはきっと、彼女自身が常に揺らぎに晒されているからなのだろうけれど。 同級生たちは土日になると電車で出かけていくので、この街から若い声は絶える。 それほどに何もない街だが、僕たちの鉄塔だけはあった。 町外れの丘にひとり建ち、巨大で、うち捨てられていた。 電柱以上に高い建物もほとんど見当たらない中、僕と

          冒頭小説「コチニールレッドの肖像」

          詩「非現実の王国で」

          頭の中のノイズが強くて食事に手もつかず 俺は熊のようにウロウロと部屋の中を丸く歩き回っている 時折思い出したようにスープをひとくち 様々なことが取り留めもなく頭をよぎり部屋の隅のわだかまりへ沈んでいく また、次にそこから立ち現れるまで。 マクベスのあらすじ 女の髪型 うちの猫は鯖猫かと思われたが実はキジシロ 今朝見た夢は退屈で思い出すこともできない 現実も退屈で夢も退屈なのだが空想はそれなりに奇抜で 俺のミトコンドリアに溶け込んだノイズは俺の脳みそを掻き混ぜて知らんスープを

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          詩「非現実の王国で」

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