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Life Goes On -太陽が沈んでも- ep.2 (再演リメイク)

←ep.1 https://note.com/6halloween9/n/n098560c2e863
まえがき(´┏_┓`)
霊長類最凶のダブル・キャストをお迎えした数年越しの再演ということで、精神面の描写が鬼👹強化されました。
目と耳を塞ぐ準備はいいか!!m9ꈊΦ✧ {嘘です最後まで見てネ💕w


☬Theme song: Birth in the Death / アリス九號. , Until The Day I Die / Story Of The Year


2.冬の蝉

「酒ねーのか、酒!」

とっととくたばれ。ほとんどそんな気持ちで吐き捨てた。それでもあいつは玄関でボロ布みたいに這いつくばる俺に黙って酒を持って来た。クソみたいに安い缶ビール。こんなもんで酔えるわけない。向こうにいた時は寝る前にもっとキツい酒ばっか煽って、それでも酔えなかった。俺はもうすぐ死ぬ。あの雇い主の皮を被った死神どもに散々弄ばれた末になぶり殺される。その悪夢に毎晩うなされた。夢の中で何度も酷い死に様を晒した。それでも必ず次の朝はやってきて、俺に白昼の地獄を見せ続けた。文字通りの"育ちの良さ"が災いしたのか、俺はいつまで経っても正気で、テメエでテメエを殺す度胸もなかった。だからただ殺されるのを待ってた。でも、あいつらが俺を簡単に殺す気なんてないと分かった時、死ぬほど恐ろしくなって、死ぬ気で逃げ出した。それだけだ。
俺は溝に落ちたカラスの死体よりも醜い。死に損ないの汚物だ。そんな俺のすぐ隣りによりにもよって平然と生きてやがるお前がいると思うだけで虫酸が走る。

「もうどっか行けよ!」
「いや、ここ俺んちだし」
「知るか!行けったら行けよ!このクソが!」
「んなこと言ってもさー…って!」

勢いあまって片手で突き飛ばした。バランスを崩して尻もちついても、嫌な顔一つせず、俺の側から動こうとしないお前を見て、心底バカにされた気持ちになる。何度名前を叫んだか。お前に分かるか?あの日の俺の絶望が。いや分かってたまるか。あの時、俺の隣りからいつの間にかいなくなって、俺が捕まっても助けにも来なかったくせに。今さら何だ。一番いてほしい時にはどこにもいなくて、どうでもいい時だけこうやって、噛んだ後のうす汚ねえガムみたいにへばりついてきやがって。そうだ、お前は昔からそんな奴だった。親には何てことねえ顔して裏では散々ヤバい事やって、蛇みたいに卑怯なサイテーのクズで、そんなお前より遥かにサイテーで道端のゴミみてえな俺を上手いこと引き立て役に使って、いい気になってただけだ。そうなんだろ?もう沢山だよ。この果てまで何の希望もねえ死体みてえな町も、路上で車に跳ねられて死んでる猫みてえなお前との記憶も、何もかも。

「あークッソマズい!ゲロみてぇな味してやがんの!!」

もうヤケクソだった。大して味もしない炭酸水みたいな発泡酒をものの60秒で一気飲みして壁にぶち投げる。クソ不味い炭酸のせいか、さっきから目も鼻もツンツン痛くてしょうがねえ。ここがどこだろうが何も視界に入れず何も考えず頭抱えてうつ伏せるのがいつもの日常。ただ昨日までと違うのは、この場所にお前がいるってことだけ。それにいったい何の意味がある。答えなんてない。ただ俺のことはもうほっとけって突き放すことにも疲れた。孤独を気取って逃げ出して、一人でいることにも正直辟易してる。もうどっちでもいい。何だっていい。イエスもノーも、望むだけ無駄だ。さっきお前がくれたとどめの一撃。たやすく削り取られた俺の地図には現在地も目的地も無い。笑いたきゃ笑えよクソ野郎。こんな腐敗した体を哀れんで笑えるもんなら。

「タカシ、そんなとこで寝たら風邪ひくぞ?」
「何笑ってんだよテメェ」
「は?笑ってねえし」
「笑ってんだろーが!」
「タカシ何言ってんの?」

その言葉とは裏腹に、まさしは笑うのをやめない。そうだ、お前はそういう奴なんだよ昔っから。だから死ぬほど嫌いなんだよ。とっととくたばれこの嘘吐き野郎!
そう思っても、今の俺には顔を上げて奴を睨むことさえできない。ただ容赦なく襲ってくる目と鼻の痛みにじっと耐えているしかない。

「タカシごめんな」
「は?何だよ今さら」
「俺さあ、気絶してたんだよあの時」
「あ?」
「あの原チャリさ、前からよくぶつけてたじゃん?だから逃げてる途中でハンドルぶっ壊れて」
「…そんなのが言い訳になるとでも思ってんのかよ」

まさしは例によって急に喋りだして、俺の言葉なんか聞こえてないみたいにベラベラと話し続ける。

「でさ、曲がれないし止まれないしで、もう発狂じゃん!したら目の前にがっつり車来てて突っ込んで、そっから記憶なし。気づいたら病院いた」

所詮卑怯者の言葉だ。嘘か本当かも分からない。しかしそれはもう遊園地でも行って来たみてぇに楽しそうにそこまで一気に言い切って、やっと俺の番が来た。

「…は、よく言うぜ。それでお前だけピンピンしてたら世話ねーだろ」
「まあ一か月くらい入院はしてたけど。入院費バカになんなかったし、親にも全部バレて家追い出されて、それからずっとここ」
「なもん俺よりよっぽどマシだよ。昔から悪運だけは強いんだテメエは。それだけで生き長らえたようなもんだろ」

ボロッちいワンルームだろうが、テメェ一人の部屋で、暴力もなしで暮らせるだけ有難いと思え。ありったけの憎悪を込めて言ってやると、まさしはまた笑った。

「俺が代わりに捕まっときゃよかったかなあー」

その声は笑いながら震えていた。ふざけんな。ふざけんなふざけんなふざけんなてめえ黙れやもうそれ以上何か言ったら殺すぞマジで。えー何かボク今ちょっと泣き入っちゃってるじゃあーんみてえな猫なで声で次俺に話しかけやがったらもう死ぬほど後悔させてやるからな。しかしどうやって。知るかバカ野郎!目と鼻の奥がいよいよ割れそうに痛くて、歯を食いしばって両手で耳を塞いだ。

マサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシマサシ

頭の中に鳴り響く地獄。耳を塞いだのは大間違いだった。さながらゾンビと化した冬の蝉の大合唱。俺の頭はとうの昔に壊れていて、クスリを積んだバイクを路上に乗り捨てて走って、聞こえもしない奴に向かって死ぬ気で叫んでたあの日の音声をエンドレスで垂れ流していた。


《続け》←


→ep.3 https://note.com/6halloween9/n/n5cff561ddd89

🗝ここまで読んでくれてありがとう。よかったらまた見に来てね🙏ΦꈊΦ☰)💕

今日も読んでくれてありがとう。読んでくれる君がいる限り、これからも書き続けようと思ってます。最後に、あなたの優しさの雫🌈がテラちゃんの生きる力になります🔥💪