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【Review】2021年J1第17節 川崎フロンターレVS.鹿島アントラーズ「長谷川のお膳立ても結果の一つ」

はじめに

 2021年J1第17節の川崎フロンターレは、2-1で鹿島アントラーズに勝利しました。小林のAT決勝点で難敵鹿島に勝利し、鬼木監督のリーグ戦100勝と開幕からの20戦連続無敗の2つの記録を達成しました。五輪の影響で次のホームゲームが9月になってしまうため、サポーターが記録達成を目の当たりにできるギリギリのタイミングでした。

 ATの小林弾は感涙ものでしたが、そこまで最小失点に抑えた守備陣にも賛辞を送りたいです。特にソンリョンは鋭い出足で少なくとも2回の決定機をシャットダウンし、勝利を手繰り寄せてくれました。1失点したものの、昨年アウェイ鹿島戦でも上田のヘディングシュートを間一髪かき出しており、上田との相性は良いのかもしれません。

積極性と連動性が裏目に出た失点

 鹿島は球際の強さを活かしてボールホルダーに寄せて対人の場面を多く作る守備スタンスで臨みます。ただ例年と少し異なっていたのが、前に出た選手のスペースを埋めるために周りが活発に連動していたこと。特にダブルボランチと最終ラインはカバーリング前提で担当エリアを積極的に離れることが多かったです。連動性の高い守備は相馬監督が構築した部分なのでしょう。
 ただ1失点目はこの守備が裏目に出た形です。SBが前に出るとCBもスペースを埋めるために距離を保って移動するため、CBがゴール前からしばしば離れます。設計としてはそうして一時的に発生するスペースは逆のCBかボランチが埋めるのですが、度々発生する一瞬の隙を山根とダミアンの関係で崩されてしまいます。その裏には家長が町田を釣り出していることも見逃せません。

 鹿島はボールホルダーに近い選手を迷いなくプレッシャーをかけさせることが目的だったと思います。特に川崎の中盤に対して、ダブルボランチと中央に絞ったSHの4人で奪いにいきたかったのでしょう。
 しかしその狙いは外されてしまいます。理由の一つはピッチが濡れていることもあって川崎のパススピードが速かったこと。人を捕まえる守備において、パスワークが速いと奪いどころを定めるのが難しくなります。
 ちょっと脱線すると、湘南戦と比較してパススピードと精度は上がっており、パス技術に関しては内弁慶に感じました。今後ACLはもちろん、リーグ戦はアウェイが続くので、パスへの期待値を下げた戦い方になるように思います。

 話を戻して、もう一つはレオシルバのところで勝ちきれなかったこと。ここは田中と旗手の個人能力の高さが光っていました。特に旗手はレオシルバを背負ってもボールを奪えわれないだけでなく、前を向いて攻撃に繋げていました。以前はもう少しレオシルバに苦しめられていたような気がします。
 中盤で奪いきれないことで、レオシルバの位置が徐々に下がっていく悪循環に陥ります。上述の通り、ゴール前のカバーリングも役割として担っているため、攻められる回数が増えると基本位置も低くなっていきます。前半川崎にボールを握られたのは、こうした要因から狙い通りにプレッシャーをかけれなかったためでしょう。

上田の空中戦を前進のきっかけにした後半

 とはいえ前半から後半の追い上げに繋がるプレーは所々見せていました。たとえばシミッチの脇のスペースを荒木が使うプレーは前半も数回ありました。相馬監督もそのプレーに可能性を感じたのではないでしょうか。
 後半は荒木だけでなく土居もシミッチの脇でボールを受けるシーンが増えます。前半は荒木とボランチを繋ぐ役割だった土居の位置を上げ、代わりに白崎が繋ぎに徹します。こうすることで最終ラインで駆け引きする上田にボールを供給するルートは完成で、あとは上田が仕事を淡々とこなすだけの状況を作っていました。

 後半の鹿島で地味に大きかったのは、上田を起点にしたボールの運び方を変えたことです。前半は足元で収められるようなパスを上田に送っていましたが、谷口に上手く対応されることが多く、またチーム全体を押し上げてのサポートも遅れていたこともあって、ボールをキープして時間を作ることができません。
 そうした状況を踏まえてか、後半は上田に対してロングボールを放ることが増えました。上田は空中戦も強く、谷口に競り勝ったところからセカンドボールを拾う形がでてきました。運ぶ余裕がある時でも優先してロングボールを入れていたことからも、チームとして優先度の高い選択肢だったと思います。

強度が落ちがちな時間帯に失点

 川崎の前半は鹿島の強みを潰した上で先制し、その後もチャンスを作っていました。だからこそ前半のうちに2点差にしておきたかったはずです。鬼木監督としても前半のような強度の高い戦いを1試合続けることを目指しつつも、現状は難しいことも織り込み済みでリーグ戦を戦ってきています。そうした自分達の現在地を踏まえた上での「3点ノルマ」なのかもしれません。

── 前半は本当にスーパーなプレーだった。後半に落ちることは織り込み済みなのか。それともトータルで考えているのでしょうか。その辺のチームマネジメントについては?
鬼木監督「一番の理想は、ああいう強度の高いサッカーをスタートから最後までしたいと思っています。そういう中で、一番は、前半で得点を重ねられれば、そこで点を取り切ることが一番の目標ではあります。[…略…]当然、ゲームマネジメントはこちらでしますが、いけるところまではいく。交代やフォーメーションも含めて、できるだけ強度を落とさずにやりたい。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第17節 vs.鹿島アントラーズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/17.html>)

 というわけで後半10分あたりから鹿島に押し込まれる展開が続きます。その理由の一つが上述の通り、上田を起点に前進を許してしまったことが挙げられます。これによってイキイキし始めたのが鹿島の両SBで、鹿島はSHが中央に絞ってプレーする分、SBに広大なスペースが与えられますが、それを十二分に活かして積極的に上がり始めます。
 川崎としては両SBが押し込まれ、受けに回ってしまいました。前半はサイドから相手を押し込むことに成功していた分、丸々とひっくり返された感じになりました。

 鹿島の両SBが上がる分、カウンターのチャンスはあったものの活かしきれません。その理由が常本に三笘が抑え込まれたため。解説でも触れられていたように、常本の三笘への距離感がよく、三笘が気持ちよくプレーできませんでした。
 一方で三笘目線で見れば、広大なスペースと仕掛ける機会があったことを考えると、常本の良さを差し引いても、コンディション含めて彼の日ではなかったのだと思います。実際、犬飼とのPA内での1対1でも仕掛け切ることができていませんでした。
 そうした状況を見て、後半19分に三笘に替えて長谷川を投入します。それ以降はこう着状態ということもあって後半42分まで交代を見送っていたことを考えると、戦術的な交代というよりも三笘個人の不調を感じ取っての判断だったように思います。

長谷川に対する期待値

 最後に長谷川の特徴を改めて考えてみたいなと。というのも長谷川に対して「そろそろ結果を」と思っているサポーターも多いでしょうが(私もそう)、彼への現在の期待値を考えると、実は残すべき結果は得点ではないように思います。
 この試合で改めて感じたのが、一瞬の切り返しでクロスを上げられるだけの時間とコースを生み出せる能力の高さです。常本の寄せに対しても持ち前のクイックネスとボールの置き方でかわせるのは三笘との違いの一つです。
 それを踏まえると、三笘のように抜き切るのではなく、いかに精度の高いクロスをゴール前に供給するかが彼への期待値なのだと思います。実際、終盤の小林への指示や、家長があまり左サイドに寄らずにファーサイドで待っていることを見る限り、長谷川の特徴を理解しての判断でしょう。その点からは、この日の長谷川は期待値を満たしたプレーだったと思います。

 ただ難しいのが、周りに求められる動きが変わることです。たとえば長谷川自身がPA内に進入するプレーが少なくなるため、代わりに飛び込む動きが登里に求められたり、サイドを抉るプレーをシミッチがオーバーラップで担うのかもしれません。いずれにせよ、ここ最近感じる長谷川への閉塞感は、周りの選手への期待値が変わってしまうことによる連携不足な気がします。

 もう一つ三笘との違いで地味に大きいのが攻撃をやり直せるかどうか。三笘はドリブルの途中でキャンセルして撤退することができますが、一方で長谷川は一発で抜きにいく傾向が強く、ダメだったときにリカバリが効かないことが多いです。攻撃が単発で切れてしまうと波状攻撃にならず、相手が嫌がりません。

 いずれにせよ、鬼木監督の目指す強度の高い戦い方には途中交代の選手が重要で、今後も長谷川は一定の出場が見込まれます。その時にはゴールを期待はしつつも、味方に良質なクロスを届けることも期待していきたいところです。

おわりに

 実は小林は鬼木監督のリーグ初戦でも決勝点を挙げており、節目で頼りになる選手です。他方で鹿島の相馬監督が川崎フロンターレで指揮をとった2011年に小林はJ1初ゴール&初シーズン二桁を記録しており、縁の深い両監督の前で見せた、いくつもの想いが交差するゴールでした。

 次節は横浜FC戦。つい先日戦っただけに互いに反省点がまだ頭に残っている相手でしょう。とはいえ川崎は代表招集のため主力5人を欠く中での戦いとなるため、前回とは異なった展開になるでしょう。ACL前最後の試合でアピールする選手は誰になるのか期待しましょう。

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