【Review】2018年J1第33節 川崎フロンターレVS.FC東京「期待の田中と待望ゴールの長谷川。時々中村。」

 2018年J1第33節の川崎フロンターレは、2-0でFC東京に勝利しました。
 負傷により一足早く今シーズンを終えた小林と大島の代わりは知念とJリーグ初スタメンの田中がつとめました。さらに左サイドハーフには長谷川が第19節以来のスタメンに抜擢されました。昨季は24試合に出場した長谷川でしたが、今季はこの試合で11試合目と苦しいシーズンを過ごしており、鬱憤を晴らしたいところ。

チグハグな東京
 FC東京は442のブロックを形成し、川崎にボールを保持されることを覚悟で試合に臨んできました。

長谷川監督「前半、川崎のここ数試合を見ていても多少ボールを握られても仕方ないと思っていて、後半に勝機を見いだしたいと思っていた。」
(引用元:<https://www.jleague.jp/match/j1/2018/112402/live/#coach> )

守備のキーマンはトップ下の高萩で、スイッチの役割を担っていました。主にサイドに追い込んで数的有利を作るか、田中に意図的に回して奪おうとしていたと思います。
 田中は入りこそ少し戸惑っていましたが、それでも物怖じせずにボールをもらい続けました。スタメンでやる自信が現れていました。もちろんまだJ1のスピード感に慣れていない部分もありましたが、中村は田中が攻守ともにやりにくそうなのを感じたのか、少し落ち気味でサポートしたり、自らを餌に高萩を上手くサイドに誘い出すことで田中へのプレッシャーを弱めるなど、長老ならではの気配りで20歳を手助けしていました。
 東京はミスから失点するも、大崩れはせず、しかし決定機を作るまではいきません。攻守両面で高萩を起点にした東京でしたが、そこに連動する動きがあまり見られませんでした。後半は永井を入れることで攻撃の方針がはっきりしたものの、逆に守備スイッチ役としては空回りしてしまうなど試合を通して個人のプレー強度は高いものの、チーム全体は噛み合っていませんでした。

長谷川と田中
 この試合注目だったのは、今季試合出場が少ない長谷川と田中でした。彼らの起用は来季に向けてチームにフィットできるかを見極める意味が鬼木監督にはあったのでしょう。そして見事期待に応えたと思います。
 昨季の5ゴール長谷川は今季初ゴールを記録し、ここまでの努力が報われました。ドリブラーとしてサイドを主戦場にする長谷川ですが、ずっとゴール前に飛び込む形を模索していました。

長谷川「そこでどれだけやり続けられるかが自分の課題で、ゴール前に入っていく動きはこの1年だけではなくて去年から意識していたこと。その動きができたのはよかった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第33節 vs.FC東京」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/33.html>)

本人によれば去年から意識していたようで、今年だと最もいい形だったのは清水戦で大島から浮き玉のスルーパスをPA内でもらったシーンでしょう。ループシュートがバーを越えてしまいましたが、抜群の動き出しでした。長谷川の強みはドリブルである一方、ゴール前の決定的な仕事までいかないのが物足りないところでした。苦手ではないのに、上手くボールを受けられないもどかしさがあったと思います。それがようやく今節現れてくれたので、来季への弾みになるのではないでしょうか。

 もう一人田中ですが、中村、守田を中心にチームメイトのサポートの中で堂々とプレーをしていたと思います。後半途中から足がつりかけていたようですが、フル出場したのは鬼木監督からの期待の現れでしょう。
 意外だったのは守備に特徴があったことです。対人の追い込み方が上手く、1点目に繋がるミスを誘発したのも田中でした。川崎のスタイルである前から奪いに行く守備に順応し、的確な判断でプレスをかけていたと思います。ただ後半押し込まれた時、待ち受けて守備をする際のポジショニングのズレは今後の改善が必要でしょう。

鬼木監督の意図
 この試合、川崎はいつものスタイルを維持しつつも、新しいことに挑戦しており、そこに鬼木監督の意図を感じました。その一つがミドルシュートで、知念の得点はその結果でしょう。

知念「チームとしてミドルシュートを狙っていこうと監督も強く言っていた。」
(引用元:同上)
鬼木監督「〔知念が:引用者注〕なかなかああいう得点シーンというのはここまでなかったんですけど、やっとあの場面で打ったと。」
(引用元:同上)

東京はボランチが前に出た後のスペースが空きやすいという弱点を抱えていたため、ミドルシュートが打ちやすい守備だったというのはあると思います。しかしそれ以上に、鬼木監督としては飛び道具というか、引いた相手を崩す手段が欲しいのだと思います、その武器としてのミドルシュートの重要性を強く感じており、この試合では強く意識づけたのではないでしょうか。
 もう一つがサイドチェンジ、特にCBから斜めに届けるパスです。こちらも、どうしても崩せない場面用に仕込みたい武器の一つで、相手を片方に寄せておいて逆サイドで仕留めるという形です。この試合だと奈良と谷口がかなり意識して斜めのロングパスを活用していました。特に奈良に関しては、個人としてずっと練習していたことだと思います。ショートパスで行き詰まった時に、今季は打開策として直接相手最終ラインの裏に放り込むパスが何度も見られました。そうした個人のレベルアップがチーム戦術に幅をもたらしています。

中村も忘れずに
 新人の台頭、くすぶっていた選手に復活の兆し、新エース誕生の予感など、来季に向けた期待が膨らんだ試合でした。そんな中でも中村は2点目をお膳立てする絶妙なスルーパスを出し、未だ健在と言わんばかりのアピール。おそらく梶山の引退に思うところもあったのでしょうが、まだまだあなたにはいてもらわなきゃ困るので。


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