サッカーJ2論

【書評】「J1よりは過酷なJ2」(松井大輔『サッカー・J2論』ワニブックスPLUS新書,2019)

はじめに

 「世界一過酷なリーグ」がどこか。子供に発煙筒を巻き付けたりアウェイ遠征で1万7000km移動するなど世界各地に過酷なリーグがある。
 正直J2がそれらに比肩するとは思い難いが、日本代表やJ1J2、さらには海外の2部リーグといった多様な環境を渡り歩いてきた松井大輔選手の口から聞くと、少しは信じても良いかも。
 松井選手の経験談から、日本に限らず世界(主に東欧)のリーグの一面を知れる1冊となっている。

降格で待遇は下がる?上がる?

 湘南がJ1昇格プレーオフを逃げ切り、磐田と松本が来季からJ2で戦うことが決まった。J1とJ2では格差があり、今季と同様に戦えるわけではない。たとえば予算規模は顕著で、選手の待遇は大きく変わる。選手が移籍するタイミングの一つだろう。
 ただ意外なことに待遇がむしろ上がるケースもあり、クラブとしては主力選手の慰留のためにJ1時よりも好条件を提示することもあるようだ。本書では松井選手の京都時代の降格エピソードが綴られており、降格に揺さぶられる様が描かれている。
 またチーム移動費も降格すると節約されるイメージだが、1年での昇格のためにケチらないケースもある。これは下の動画内で佐藤寿人選手の広島での降格時の話の中で触れられているのでそちらを見て欲しい(アウォーズでの格差話も面白い)。もちろん全てのクラブが出来るわけではないが、降格に合わせて選手のモチベーションを下げさせないことも昇格には重要なのかもしれない。

チャレンジャーか、助っ人か

 全編松井選手の経験談のため、内容は日本に限らない。彼が所属したリーグ全てが綴られており、これらを読むと本書の帯に反して「日本の方がマシでは?」と思ってしまう。
 それぞれが数ページで収められているため物足りなさはあるのだが、ある程度実力が認められ「外国人助っ人」として扱われることや、海外での「無い」から感じる日本の「有る」などは一見の価値がある。
 たとえば松井選手がバス移動を快適にするためにわがままを言っているのだが、このエピソードは「海外移籍=チャレンジャー」のイメージから離れている。本人にとっては挑戦でも、クラブにとっては補強である。移籍が増えてきた昨今、日本人選手の移籍に対するイメージは払拭していく必要があるかもしれない。

おわりに

 改めて言うが、本書を読んでJ2は割と恵まれていると感じた。むしろ海外の方が厳しいイメージが強まった。ただ間違いなく「J1よりは過酷なリーグ」であることはわかる。2つのリーグにある格差を私たちは知っておく必要がある。
 初めからあったわけではないJ2。J1創立から6年遅れで誕生したJ2は来年で22年目を迎える。今や日本サッカーに置いて無視できない存在になっている。J2を知らずに日本サッカーは語れない。
(※Kindle版もあります)


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