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【Review】2021年J1第18節 清水エスパルス VS.川崎フロンターレ「パス、ドリブル、そしてフリーランも備えた10番」

はじめに

 2021年J1第18節の川崎フロンターレは、2-0で清水エスパルスに勝利しました。ACLを終えてウズベキスタンから帰国後すぐで、しかもクラブ内に新型コロナ陽性判定者が出る中での厳しい戦いとなりましたが、勝利を収めています。

 対する清水はここ5試合負けなしと調子が上向いていただけに痛い敗戦。試合運び自体はポジティブな印象だったので、アクシデントがなければ、降格圏から離れていくように感じました。

最終ラインのスペース管理

 清水は右SB原を攻撃面でも生かすため、ボール非保持の時も出来る限り前に配置します。たとえば宮城がタッチライン側に張った際にもサイドに出て守備をします。そのため井林と原の間にしばしばスペースが生じます
 とはいえそれは織り込み済みで、ボランチの竹内が埋める守備設計をしていました。スペースに侵入する選手がいればマンマークで付いていきますし、そうでない時もボールホルダーに対して背後のスペースへのパスコースを切るように守備をします。竹内のスペース管理能力は高く、大島は度々侵入を試みていましたが、マークを外すことができませんでした。

 ただ1点目はこのスペースにパスを通されたことで生まれます。理由は登里のパスが右足で意外性があったためです。得点のシーンでは、竹内は登里に対して左足の前に立って守備をしていました。ただ登里が右足でボールを持っていたのでパスへの警戒が緩んでいるように見えますし、実際竹内の近くをボールが通っているので、意表を突かれたパスだったのでしょう。
 この意外性に加えて、井林が飛び込んでダミアンと入れ替わられてしまったことでピンチを広げてしまいます。この場面はロティーナ監督がコメントしているように、相手にチャンスを与えるプレーだったと思います。逆にダミアンとしてもああいったCBと入れ替わって前を向くことは常に狙っているプレーでしょう。

ロティーナ「ただ1失点目のインターセプトは、体を使うのがうまい選手に、無理に狙って入れ替わられた。これは修正する必要があります。私は、常にインターセプトを狙うセンターバックは好きではありません。というのは、相手に抜くチャンスを与えるからです。そこは修正できると思いますし、それ以外のパフォーマンスは攻守においてとても満足しています。」
(引用元:川崎フロンターレ公式「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第18節 vs.清水エスパルス」<frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/18.html>)

前後左右に繋いだ滝

 清水で気になった選手が途中から左サイドでプレーしていた滝です。清水は後半早々カルリーニョスの負傷交代がありましたが、幸か不幸か、ここから調子が上向きました。その要因の一つが滝の前後左右の選手を繋ぐプレーだったと思います。
 滝は内外のポジショニングの使い分けが上手く、フリーでボールを受けることができます。加えて相手選手を引きつけながらポジションを取るので、相手の配置に歪みを生じさせることができます。
 後半何度かあったのが、右サイドでボールを奪って左サイドの山根の裏を使った攻撃です。この右から左への展開の中継を担っていたのが滝ですが、その際に山根の視野にあえて入って内側に引っ張っています。そうすることで左SBの奥井が上がるスペースを生み出していました
 他にもFWとボランチの間でボールを受けることで、低くなりがちだったサンタナのポジショニングを押し上げ、カウンターの鋭さを高めていました。このように滝により清水の攻撃はよりスムーズになり、終盤の攻勢に繋がっていました。

相手ディフェンスに迷いを与える宮城

 前半の清水ディフェンスに歪みを生じさせたのは宮城でした。右SBの原に対してポジショニングで優位に立てていました。サイドに引っ張るだけでなく、原と井林の間に侵入するなどの揺さぶりをかけることで、原に迷いを与えていました。
 彼の強みの一つが相手を引き付けてプレーができることです。相手の矢印を強く自分に向けさせ、その矢印をかわす技術を持っています。そのためサイドでドリブルも可能ですし、中央の狭いスペースでもプレーができ、攻撃の幅を持った選手といえます。

 他方で、相手の逆を取るポジショニングはまだ苦手なようです。後半は原と片山でボールを受けるコースを切られることが多かったのですが、彼らをかわしてボールを受ける回数が少なく、前半ほど相手に脅威を与えられていませんでした。
 この辺りは彼個人の受ける技術だけでなく、左IHに位置した大島や左SBの登里との連携もあるので、今後はよりスムーズになっていくと思います。とはいえコメント見る限り急遽の先発だと思われるので、十分な活躍と言っていいのではないでしょうか。(おそらく長谷川に何らかのアクシデントがあったと思いますが、焦らず戻って来てほしいです。。)

宮城「ACLと天皇杯でチャンスをもらって、自分の長所がアピールできた中で、こういうスタメンのチャンスをもらえた。突然ではあるが、緊張せずにすんなり入れたのは良かった。」
(引用元:同上)

フリーランで相手を動かす大島

 この日の大島で印象的だったのはフリーランで相手を動かすことが多かったことです。以前はパスやドリブルで相手を動かすプレーが主だったので、いま新たなチャレンジをしているのだと感じましたし、既に効果的な武器になっていました。
 特にフリーランの判断が上手く、序盤は原と井林の間を狙うランニングを続けていましたが、竹内が付いてくるのを把握すると、あえて走らないプレーを選択するようになります。これはスペースを潰さないためで、結果的にダミアンに裏を抜けるためのスペースをプレゼントしています。状況を把握した上でのフリーランは、リーグ後半戦を支えてくれるでしょう。

 他方でまだランニング量は抑え気味なように見えました。怪我明けですし、田中不在のいま怪我されると困るチーム事情からだと思います。当面は鬼木監督も無理をさせない指示になるのではないでしょうか。
 そうなると重要になるのがジェジエウだと思います。というのも、右サイドからのビルドアップでジェジエウが担う役割が増えるからです。
 この日の大島は右サイドにボールを受けに動くシーンが少なく、その分右サイドからのビルドアップで詰まる場面が多かったです。ただジェジエウからシンプルに相手の裏を狙うボールが増えるのはメリットが大きいです。ACLでも見せたようなタッチダウンパスが彼から供給されると、相手を押し込める副作用もあるので、今後期待したいプレーです。

大島の置き土産

 終わってみると、大島の2点目があったことで終盤も落ち着いて試合を進めることができました。逆に言うと、1-0のまま終盤に突入していたら追いつかれていてもおかしくなかったでしょう。それくらいタフな試合でした。
 この過密日程、かつ新型コロナの陽性判定者の発生もあり、普段通りではない中で迎えた試合でした。前線からの積極的な守備も後半は控えめだったのも無理はありません。鬼木監督が試合後に割り切ったコメントを残しているのは珍しく、それくらい難しい試合でした。

鬼木監督「そこがバラバラになると、中央を使われ始めたので、最後は割り切って閉めて終わろうという形にしました。」
(引用元:同上)

 そんな中でも少ないチャンスをものにして掴んだ2点目は、チームにとっていつも以上に大きな追加点だったはずです。大島は後半20分に退きますが、彼の置き土産で90分間戦えたと言っても過言ではないと思います。(置き土産と言ってもチームから立ち去るわけではないですが!)

おわりに

 さて水曜日の天皇杯を終えると、一旦お休み期間に入ります。家長さんは選手のために鬼木監督に休養の直談判をお願いします
 それとスタッフの皆さんにも労いの言葉を送りたいです。ストレスフルな状況の中での海外遠征はハイレベルなミッションだったと思います。ひとまず無事に6試合戦い、帰国できたことが素晴らしく、本当にお疲れ様でした。

 さてお休みの後はチームのチューニングを進めていくことになると思います。今季主力だった田中と三笘の移籍に伴い、戦い方の調整が必要となります。特に田中から大島へのチェンジは、特徴が大きく異なるため周囲との連携は再構築になるでしょう。併せてACLで経験を積んだ若手選手の台頭も期待しつつ、中断明けの試合を待ちたいと思います。

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