見出し画像

Jリーグが情報公開してるってさ

 昨年末に『J.LEAGUE PUB Report 2019』が公開されました。「Jリーグに関わる全ての方が参加して(Participate)理解して(Understand)共につくる(Build)リーグ」を目的とした情報公開なので、参加してみませんか?

サッカーの自己完結性

 ざっくりと要約する前に1つだけ取り上げたいのが「スポーツ・インテグリティー・マネジメント」。初めて目にした言葉でしたが、「スポーツがさまざまな脅威により欠けることなく、価値ある高潔な状態」を意味します。
 Jリーグが主に想定している脅威はドーピング、差別、コンプライアンス違反で、これらからスポーツを守るために健全な組織運営を目指しています。このPUBレポート自身も、組織のアカウンタビリティー強化の一躍を担っています。
 この言葉が気になったのは、スポーツの自己完結性をスポーツ運営組織の目線から言語化していたからです。兼ねてからスポーツの魅力はその自己完結性、言い換えると手段と目的の関係に回収されないことだと思っています。
 はい、ややこしいですね。ざっくり言えば「純粋な遊び」です。健康のためにスポーツをやる、稼ぎたいからサッカーをする。このように何か別の目的でサッカーをするのではなく、「サッカーをしたいからサッカーをする」、この自己完結性が魅力です。これはサッカーに限らず他のスポーツ、音楽とかもそうです。
 ただそうはいっても、組織としてサッカーを持続的に運営するためにはその価値や成果を外部に示す必要があります。その外部を明確にすることがマーケティングだったり、顧客の創造です。これらを通じて組織は自分たちの活動の価値を示し続ける必要があるのです。
 その時にどうしても歪みが生じ、経済合理性が強く働く社会においてはこの歪みは無視されがちです。この状況に一抹の不安を感じていたのですが、PUBレポート内で「スポーツ・インテグリティー・マネジメント」という言葉で表現されていたので、少し安心しました。
 もちろん「高潔な状態」が曖昧だったり、対策が主にガバナンスに偏っており不十分な部分もありますが、この点を認識しているかどうかがまずは重要で、その意味でこのレポート内で示しているのは重要だと思います。

2つの特集

 気になる点について好き勝手に書いたので、あとは駆け足で要約していきます。ページ数も付けておいたので、興味関心があるところは原本見てみてください。
 まずは「ビジョン2030」と「Project DNA」に関する2つの特集です。「ビジョン2030」はJリーグが2030年に実現したい姿を定めたもので、そこから逆算して2022年までの中期計画も立てられています。すごくコンサルっぽい(p.8)。
 「Project DNA」のDNAは"Developing Natural Abilities"の略で、「選手や指導者が本来持っている様々な資質を紡ぐ」をコンセプトにした育成施策です。「育成をコストセンターからプロフィットセンターへ」の言葉が書かれているように、アカデミー経営を改革したい想いを感じます。浮いた言葉にゾワっとした方は中身読んでみてください(p.10)。

年間総入場者数が1,100万人突破

 続いてはシーズンリザルト。各大会の結果に始まり、入場者に関する数値を見ることができます。改めて川崎は16試合が満員試合(集客率80%以上)ってそりゃチケット争奪戦になりますよね(p.16)。

Jリーグが取り組む4つの領域

 次が"Management Strategy"、いわゆる組織の中長期計画です。冒頭の「スポーツ・インテグリティー・マネジメント」もここにあります。主に「中期計画2022」に向けた具体策を4つの領域に分類して説明しています。
 まずは「社会連携」。こちらは「Jリーグをつかおう!」を合言葉に、地域を始めとした多様なステークホルダーと協力して社会課題を解決する試みです。こうすることでJリーグが多くの人にとって価値のあるものになることを目指しています。最近だとSDGsとの関わりが盛んなようで、きっと財務、非財務の統合報告の流れにも乗ってくるんだろうなと予想してます(p.42)。
 2つ目が「フットボール」で、主に育成関連です。「日本型育成システムの基盤確立」の「日本型」はよく分かりませんでしたが、施策だけを見ると結構網羅的にやってる印象を受けました。これまでの反省が知りたいですね。他にもVARに関しても触れられていました(p.50)。
 3つ目の「ファン」では2030年に全試合を満員(集客率80%以上)にすることを目指した施策が列挙されています。FC東京と横浜Fマリノスのマーケティング部長の対談は面白く、FC東京の部長曰く川崎とFC東京だとお客様の層が違うようです(p.58)。
 そして最後が「事業強化と経営基盤」。このセクションに限らずレポート全体で人材への飢餓が滲み出ていますが、だいぶ困ってるんですかね。他にもアジア戦略やファン獲得への投資の方針が載ってます(p.68)。

安心・安全なJリーグを目指して

 最後は2つのコメント、1つがコンサルティング会社デロイトトーマツのスポーツビジネスへの見解、もう1つは村井チェアマンの総括で締められています。
 前者はビジネス全振りで、論点整理には役立ちそうです。最近は消費形態が「モノ」から「コト」に変わってきたと言われますが、ここでは更に「トキ」と「イミ」が消費に大きな影響を与えると述べられています。消費に踊らされてる感が半端ないですね。
 村井チェアマンは手堅く振り返りと展望を述べています。良かったのが「安心・安全な環境づくりへ」で1段落書かれてました。パワハラ問題は触れなければならないですが、一方で台風によるサポーターの安全侵害についても触れていて、バランス感覚を見せつけられました。

話のタネに

 とまあだいぶ駆け足でまとめました。気になったところだけでも読んでいただければ幸いです。そしてJリーグの想いを汲み取って、このレポートを皆さんの話のタネにしてもらえたら嬉しいです。


いつもありがとうございます。サポート頂いた資金は書籍代に充て、購入した書籍は書評で紹介させていただきます。