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一年ぶりの既婚者パーティー

5話 作戦

1人だけ暑苦しいネイビー色のスーツを着ている
イキった感じの男がいた。
くたびれた私服男性の中、
彼は最初から明らかに目立っていた。

今から思えばその服装もそれが狙いで、
開始時間前にみんなが着席している中で
1人席を立ってウロウロしていたのも
注目を浴びるための作戦だったのかもしれない。

季節感のない微妙な明るさのネイビーのスーツに
新庄bigbossのような
真っ白なワイシャツに大きな襟を立てて
Louisvuittonの大きな舟形バッグを下げていた。

メジャーなハイブランドのバッグは持つ人を選ぶ。
そぐわない人が身につけると
かえって偽物に見える。

(イキっているだけに誰にもファッションセンスを
アドバイスしてもらえないんだろうな。。。)

週末も忙しいビジネスマン設定だろうが、
そのセンスのない出立ちに
さちこにはどうしても
仕事ができる男には見えなかった。

(だったらこの初夏でもあえての
黒のタートルネックセーター&デニムのが
よっぽど仕事人間でカッコよく見えるよね。笑)

その男は世間一般には
イケメンの部類に入る顔立ちではあるが
彼の肌色にその系統のネイビーは全く似合わない。
かえって清潔感に欠ける。
できる男はセンスのいい店員とも仲良くなれるし
自分にファッションセンスがなくても
それなりに着こなせるものである。

こんな第一印象で全てが決まるような場に
似合っていない色の服を着てくること自体
残念な男である。

無論、さちこ的には服のセンスのみならず、
見るからにセックスも雑そうだし、
色気に欠けるので願い下げだった。

願い下げどころか、
まだ話す前から嫌悪感さえ覚えていた。

そしてこんなイタイ男は決まって、モデル系の
意識高め女子が好みのタイプなのである。

そもそも金目当ての人生経験が浅い若い女にしか
相手にしてもらえなさそうなタイプだが
既婚者パーティに
そんなギャルはいるのだろうか。。。

彼の視線の先を辿ると
さちこ達の隣のテーブルに
そんなピッタリな女性が一人いた。

今流行りのアジア体型には似合わない
中世ヨーロッパの人々が着ていたようなフォルムの
パステルピンクのワンピースに
茶色の長い巻き髪をしている女性だった。

顔はヒアルロン酸でパンパンに膨れ上がり、
つけまつ毛もしっかりついて
アイシャドウはキラキラ光っている。
横顔しか見えなかったが
明らかに化粧の濃い女だった。

(あれ、主婦なのか?
どう見ても
キャバ嬢のお仕事メイクに見えるが。。。)

女性の参加資格は39歳〜だったが、
彼女は30代前半に見えないこともない。
ただ42歳くらいと言われれば
そんな感じでもあった。

さちこは3巡目が終わって
男性の席替えタイムに化粧室に行き、
戻ってくるとその男のいる4巡目のグループが
席についていた。

彼の隣の男性2人はこれまた冴えない風貌だった。

仕切りの透明アクリル板で
相手の声が聞こえづらく、
会話も盛り上がらない。

いや、会話が盛り上がらないのは
その冴えない男達の小声のせいでも
つまらない話のせいでもない。

彼らは冴えないなりにも
一生懸命話題をふってくれていた。

盛り上がらないのは
腕を組んでつまらなさそうにしている
イキった男の変な存在感だった。

誰かがつまらなさそうにしていると無視できず、
声をかけて輪に入れてあげようとする
癖があるさちこ。
彼に興味があるわけではないが、
なんとなく場の空気を和やかにしようとする
本能のようなものが疼いてしまった。

会話が途切れ静まり返っているので
左斜め前に座っていた彼にも
一応話をふってやった。

「有吉に似てますね!」
「。。。。。」

聞こえてるのか聞こえてないのか
こちらをチラッと見たまま
無表情で腕と足を組んでいた。

「有吉弘行に似てますよね。」

聞こえていないのかと思い、
少しボリュームを上げて再度声をかけると
彼はめんどくさそうに答えた。

「。。。。。それよく言われるけど
全然褒め言葉じゃないから。」

(は?いやいやいやいや、褒めてねえよ。
似てるからそう言っただけだし。)

「あー、嫌だったんですか。
すみません。地雷踏んじゃったみたいで。笑」
「でも似てるよね〜。笑」

さちこは彼の向かいに座っている左隣の女子と
顔を見合わせて笑い合った。

「さっきもあっちで同じこと言われたんだけど。」
「ほら、やっぱ似てるからですよ。」
「全然嬉しくねえよ。」
「じゃあ誰に似てるって言われたら
嬉しいんですか?」
「誰って。。。
中居君とかも言われたことあるけど。」

(は?似てねえよ。)

「あー似てるかも。」

さちこは似てないと思ったが、
左隣の女子がフォローして言った。

「だから中居君とか有吉って言われても
全然褒め言葉じゃないから。」

(だから褒めてねえってば。
おめえがむすっと
つまらなさそうな空気出してるから
話ふってやっただけでねえか。
なんでおめえを褒めなきゃいけねえんだ?)

「あ、そうですか。。。」

さちこは彼に話しかけたことに後悔し、
もう彼のことは無視して
他の2人の男性の話に耳を傾けた。

長ーい30分が経ち、
ようやく席替えタイムとなった。
向かいに座っている冴えない男が
ライン交換しようと言ってきたので
仕方なくスマホのQRコードを出してやった。

有吉似の男は挨拶もなく席を立ち、
「俺にはライン交換聞いてくるなよ。」オーラを
バンバン放ってトイレに行くふりをしていた。

(誰もオメエと交換しねえよ。
さっさと目の前から消えてくれ。)

とにかく後にも先にも
唯一目障りで不愉快な男だった。

すると彼が移動する際に
コソコソとその冴えない男に
耳打ちしているのが聞こえた。

「俺、日光が苦手だから
次、窓側の席と変わってくれない?」
「いいよ。」

次のグループに行く前に
どこに座るかを相談しているようだった。

(なるほど、
2巡目グループの向かいに座ってた男が
私の前に座ったのもやっぱりそういうことか。
男性達は移動の瞬間に結束力が生まれて
次はどの子の前に座りたいか
相談しあってるんだな。
何が日光が苦手だよ。
オメエの顔、
ゴルフ焼けみたいに真っ黒じゃねえか。笑)

さちこは妙に納得した。

ここで普通なら
<今度からは目の前に座った男性が
自分のことを気に入ってくれてる確率が
高いのだからその男だけに集中すればいい。
その男に興味がなければパスすればいい。>
という受け身的教訓で終わるのだが、
フィッシング好きなさちこは少し違う。

これからは
自分達のテーブルに来るまでの男性陣の並びを
都度チェックしておき、
強いては気に入った男がいれば
その入れ替わりの傾向で
自分に興味があるかないかまで推察しておく。

そういう作戦が必要なことに
今更ながら気づいたのであった。

もう4巡目も終わり、残すはあと1グループで
この気づきは今回生かすことはできなかったが、
次回からは絶対に生かそうと思うさちこであった。


6話に続く。。。

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