見出し画像

【小説】フラッシュバックデイズ 31話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

31話 肩書

旅行から帰ってからの職探しには苦労した。
日雇いの肉体労働や、短期のアルバイトはどれも長続きしなかった。
週末は絶対にクラブの為に休みたい。
そんなヒッピーかぶれの長髪のジャンキーには大阪といえどもやすやすと金を稼ぐ場所を与えてはくれない。
すぐにでも仕事を探さなければネタはおろか、生活費さえままならない状況だった俺はクラブやパーティーで似たような見た目のヤツには、必ず仕事何してんの?と聞いて回った。大概は美容師だったり、販売員だったり、自営業だったりと、きちんと肩書のある、フラフラとした自分の滑り込む余地のない仕事だった。
根気よく探していると、先日のパーティーで知り合った男「サコ」の紹介で、パソコンを使ったサクラの会社の面接にありつけた。この風貌で雇ってもらえるならどこでも良かった。

少し古めいたビルの一室でおそらく堅気ではない社員との軽い面接の後、サコに事前に教わっていたおかげで、タイピングテストをなんとかクリアすると、奥のびっしりと並んだパソコンの部屋に通された。
それぞれのパソコンの前には金、赤、等色とりどりの頭の後頭部が見える。
案内された席に座ると、俺はある女の顔写真と情報、マニュアルを渡された。俺はこの架空の女になりすましマニュアルに沿って客に課金させる。
まさかこんな長髪に髭を蓄えた風貌の男がメールをしているとは相手の男は思ってもいないだろう。

案内された男が部屋から出ると静かだった部屋が休み時間の学校のように一気に緩んだ。皆思い思いに席を立ったり、喋り出した。
紹介してもらったサコが近づいて、「タイピングいけたんやね」
「練習しておいてよかったわ」
サコからここの緩んだ雰囲気の理由を教えてもらった。
一日に数回来る社員の見周りさえ大人しくしておけば、後は休み時間の学校のように自由な雰囲気だそうだ。
周りを見渡すと、タトゥーまみれのバンドマンらしき男達や、ギャル男、ギャル、など大阪中からよくぞここまで集まったものだと感心する程、到底普通の仕事につけない者達ばかりだ。

とりあえず一服しに行こうと誘われ、部屋の奥の喫煙室に入ると、既に数人が入っており、ユーヤは俺を紹介してくれた。
仕事自体はクソだったが、大多数が友好的で最低でもガンジャ程度は嗜むジャンキーだったので、仲良くなるのに時間はかからなかった。バンドマン、DJ、芸人、役者、バックパッカー、古着屋、、等おもしろそうなヤツを集めたような学校のようなこの職場が気に入った。
おかげでネタのルートも広がり、知り合ったバンドマンのライブやDJのクラブにも行く事が多くなった。

仕事で知り合った同世代のライブやクラブは新鮮で楽しかった半面、何もない自分を少しみじめに感じた。
もちろん、同じ仕事をしているのだが、俺と違うのはしっかりと肩書きがある事。バンド、DJ、役者、芸人。彼らはありきたたりだが、まぶしく見えた。
俺はクソみたいなサクラの会社のフリーターでただのジャンキー。
ケンは自分のCDを出すために制作活動が忙しく最近あまり会っていない。
ミキはカフェの仕事を辞めて別の道に進もうとしている。

ある日、仕事で知り合ったDJの部屋にネタのやり取りの為に遊びに行った。
さすがDJの部屋だけあってターンテーブルとミキサーの周りにはレコードが溢れていた。
DJは軽くレコードを繋ぎながら、まあ一服でもと二人でガンジャを吸いながらまったりしていると、知っている曲が流れた。この曲良く聞くんだよな~と嬉しそうにしていると、レコードの紙ジャケットを渡された。
初めて手に持ったレコードの紙ジャケットはデザインもかっこよく単純に家で聴きたいと思った。
「ターンテーブルっていくらくらいなの?」軽い気持ちで聞いてみると、
「DJしたいの?ミキサーなら余ってるけどいる?」
「いいの?」

ひょんなことでミキサーが手に入った。
今まで考えもしなかった「DJ」というものを意識するようになった。
今まで踊る専門だった。自分が踊らせる側になれるだろうか?
まだターンテーブルすらないが、部屋のミキサーを目の前に、自分のDJで人が踊る場面を想像してみた。
最高だ。
久しぶりに自分の胸が熱くなっていた。

つづく

◆関連書籍/グッズ◆
下記のリンクから購入いただけますと私にアフィリエイト収入が入ります。
よろしくお願いします。

キャプチャ46

キャプチャ45

キャプチャ47


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?