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風が止まった日~1985夏~

カラ~ン、スタスタ…
遅れて入って来た〝タケシ〟はインベーダーゲームの席に座るなり言った。
「8時間耐久にケニーが出るみたいだぞ!」
セブンスターを揉み消して〝カズト〟が驚いて言った。
「マジか!凄いやん、誰と組んで走る?」
「タイラみたいだぞ!」
そう言ってタケシは100円ライターでマイルドセブンに火をつけた。

藤枝の喫茶店〝ゆあ~ず〟は高校のタメで、ライダー仲間の俺達の溜まり場になっていた。
用もないのに毎週集まり、くだらねー話をしていた。

きっかけは6月の晴れた日曜日。
「ケニーの走り、見たい!」
「鈴鹿サーキットに行こう!」
と誰かが言い出した。
「バイクで行くのか?」
750ライダーを読む手を止めて俺は言った。
「場所も道も分かんない、どうする?」
「会社の先輩が今年も行くから一緒に連れてってもらえばいい」
タケシの先輩はサーキット経験者で何度も鈴鹿に行っている頼れる先輩ライダーだ。
「行くしかないな!」
みんなの瞳が輝いた。

始まりの夏だ。

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