第20回: 糖尿病はイスラム諸国でも深刻
2017年9月26日掲載
ハラール市場の盛り上がりが影響しているのか、今年は昨年以上に海外企業を対象とするセミナーへの登壇機会をいただいています。これまでマレーシア・ペナン、ジョホールバル、韓国・ソウル、クアンタン、ブルネイを周り、今月以降はシンガポール、コタキナバル、クアラルンプールと続きます。セミナーでは日本のハラール市場への参入策を聞かれるのですが、私は日本へ売る策と合わせて、日本と一緒に他国へ売る策を提案しています。今月はその中でも特に反響が大きいヘルスケア分野について考察します。
糖尿病はイスラム諸国でも深刻
糖尿病が世界的な健康問題であることは広く知られています。日本でも代表的な生活習慣病として長年対策が講じられていますが、発病の低年齢化が進むなど改善には至っていません。現代のライフスタイルは糖尿病になりやすいといわれ、運動や食生活といった生活習慣の見直しが叫ばれていますが、今では世界界的な問題になっています
このチャートは世界のムスリム(イスラム教徒)と糖尿病患者の人口分布です。アジア太平洋地区が大きなシェアを占めていることが確認できます。もしかすると、身近に接しているムスリムの中には恰幅のよい紳士が多いと感じられるかもしれません。私は20年前からASEAN(東南アジア諸国連合)のムスリムと接していますが、近年は特に糖尿病の方が増えたと感じています。奇しくも先月、シンガポールのリー・シェンロン首相が施政方針の中で「糖尿病との戦い」を宣言したことは、事態の深刻さを物語っています。
もう少し詳しく見てみましょう。このチャートは国別成人の糖尿病率ランキングです。中東諸国で非常に高い割合になっていることが確認できます。世界平均の3倍近くに至っているのですから、国家問題といっても過言ではないでしょう。マレーシアがメディカルツーリズム(医療観光)を基軸にしたハラールのヘルスケアについてサウジアラビアへの関与を強めているのは、こうした事実が背景にあります。またシンガポールは、健康促進局(HPB)が認定する赤いピラミッドを模したヘルシャーチョイス(Healtier Choice)マーク付きの食品数を増やしており、毎年中東諸国への輸出を伸ばしています。
ダイエットで売れる「健康」
団体旅行(GIT)から始まった日本のハラールツーリズムは、今ではすっかり個人旅行(FIT)が主流になっています。今後は先行する東アジア諸国のように訪日リピーターが増え、都市から地方へと訪問地が広がり、さらに特定の目的をもったツーリズムが増えると予想されます。現在、中国人旅行客の間で地方で澄んだ空気を堪能する“洗肺”、台湾人旅行客の間で北海道のグルメ、韓国人旅行客の間で大分で温泉が人気を博しているようにです。
こうした目的型の観光はディスティネーション・ツーリズムと呼ばれ、世界のツーリズム市場で需要が急増しています。例えばアドベンチャー・ツーリズム、サイクリング・ツーリズム、アート・ツーリズムといったものです。ここ10年ほど日本でも注目されたメディカル・ツーリズムもその一つです。
ディスティネーション・ツーリズムの特徴としては、長期滞在とリピート率の向上が挙げられます。長期滞在は消費支出増に繋がり、魅力的な経験はリピート率の向上に影響します。昨今、富裕層に広まっているダイエット・ツーリズムは、これらにエンゲージメント(ブランドと消費者の絆)の強化が加わります。ストレスのないプライベート空間で、テーラーメイドのプログラムに沿って運動し、地元の食材を使った健康的な食事を取り、離日した後も食材を日本から輸入してメンテナンスを図るというものです。つまり日本にとっては、長く滞在し、繰り返し来てもらって、自国にいる間も商品を買ってくれる上客になるというわけです。
時代はナチュラル、オーガニック、ヘルシーへ
ハラールに関する報道の中には「ハラールはヘルシーだ」と伝えるものがあります。日本でも、上智大学で販売されているハラール弁当を買い求める女子大生が「ハラールはヘルシーだから」と話しているのをニュースで見ました。これをマレーシアやブルネイで紹介したところ、セミナー参加者は苦笑い。つまり彼らは、ハラールはヘルシーだとは思っていないのです。ハラールは安全安心ではあるものの、残念ながらヘルシーというには根拠が不足しています。ハラールはイスラム教の戒律に従っていることを意味するだけで、それだけで健康を約束するものではないからです。
だからこそ「ムスリムにとって今、最も安全な国」である日本は“ヘルシーハラール”をPRできる絶好のポジションにいます。安全、長寿、健康といった良いイメージをベースに、手付かずの自然や豊富な食材を使って、問題解決型のユニークなツーリズムを提供できるのです。
世界の食のトレンドは、ナチュラル、オーガニック、ヘルシーがキーワードになっています。それに食の禁忌やアレルギー対策等が加わって、ハラール、ベジタリアン、ビーガン、グルテンフリー、ノンMSG(グルタミン酸ナトリウム)といった食の多様性「フードダイバーシティ」への対応が求められているのです。このトレンドを理解し、日本が培ってきた良いイメージと消費者の問題をかみ合わせれば、世界の消費者に刺さるツーリズムを提供できるでしょう。
掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2017/09/NNA_SG_170926.pdf
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