第11回: ハラールMICEが始まった

2016年12月27日掲載

11月22日と23日の2日間に渡り東京で「HALAL EXPO JAPAN 2016」を開催しました。過去最多の出展者数と入場者数を記録したエキスポは、日本初のムスリム(イスラム教徒)ファッションショーが大きな話題となり、取材24社を通じて世界中に報道されました。今月はこのエキスポがどんな効果をもたらしたかに注目してみましょう。

ハラールMICEが始まった

まずご紹介するデータは「エキスポ来場者の国別の内訳」です。約7,000名の今年の来場者の7割は国内から、3割は海外からの来場者でした。最多はインドネシアで、続くマレーシアと合わせ海外来場者の過半数を占めるに至りました。インドネシアは団体旅行客(GIT)の来場が目立ち、マレーシアは個人客(FIT)が多く見受けられ、ムスリムの訪日形態にも変化が出てきていることがうかがえました。

第11回_図1_スクショ

エキスポは2日間の開催でしたが、海外からの来場者の多くはその前後の一週間、長い人は10日以上も日本に滞在していたようです。私と一緒に訪日したシンガポールの企業グループは7日間、マレーシアの企業グループは6日間東京周辺に滞在し、エキスポに合わせて訪日旅行を楽しんでいました。エキスポの開催を毎年11月下旬としているのは、マレーシアやシンガポールのスクールホリデーと重なるようにし、家族帯同で訪日できるようにするためです。

今年のエキスポは「浅草の街全体を巻き込む」ことをコンセプトとしていましたので、会場から浅草エリア内のムスリム対応店舗への送客にも注力しました。その結果、人気店はエキスポ開催前から賑わい、中には入店一時間待ちの店舗も出たようです。先述のシンガポールの企業グループの中には4日間の浅草滞在期間中に3回も同じハラール焼き肉レストランへ通い、台東区が発行している「ムスリムおもてなしマップ」に掲載されている全ての店舗へ行った方がいたとの報告を受けました。小さいながらも浅草ではハラールMICEが始まったわけです。

MICE政策はシンガポールから学べ

日本の観光庁によるとMICEはビジネス旅行形態の一つで、会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、展示会・イベント(Exhibition/Event)の造語です。日本では特に地方創生策の一つとして注目され、国は「2030年までにアジアでナンバーワンの国際会議開催国として不動の地位を築く」ことを閣議決定しているほどの熱の入れようです。現に日本は15年グローバルでは8位ながらアジアでは4年連続首位ですが、都市別となると東京はアジア7位、首位はシンガポールです。2015年の開催数で見ると、シンガポールは156件、東京は80件、京都45件、福岡30件という結果になっています。(*1)

第11回_図2_スクショ

シンガポールがMICEに強いのは、都市設計がMICE政策に合っているほか、英語が通じる環境であるなど、さまざまな理由が考えられますが、食事の面においても充分な配慮がされている点に注目すべきでしょう。国際会議での食事はハラール、ベジタリアン、ビーガン(ベジタリアンと異なり、卵や乳製品も口にしない純粋菜食主義者)への対応が必要なケースが多く、00年代に国内の飲食店や宿泊施設によるハラール認証取得を推進してきたことが、少なからずMICEにも好結果をもたらしていると考えられます。

「できることから」を実践の北海道

日本は国がハラール認証を管轄しているシンガポールと事情が異なりますが、同認証に頼らずにムスリムの受け入れ体制を整備しようという動きが各地で出てきています。中でもユニークな取り組みを進めているのが北海道です。先日、札幌市で開催されたセミナーとその後の試食会では「できることから」について熱のこもった議論が展開され、その後37品にも及ぶムスリム対応の食事が紹介されました。
 
北海道は地域ブランド8年連続首位の自治体(*2)ですが、15年12月現在ハラール認証店舗はありません。(*3)それでもインバウンドで成功している”北海道が、次のターゲットを見据えてムスリム対応を始めていることは注目に値します。この日振る舞われた料理には全てピクトグラム(絵文字)が表示され、ムスリム客の判断に委ねる姿勢を明確にしていました。さまざまな理由ですぐにハラール認証の取得には動けないものの、できることから対応してもてなしたいという姿勢は、来場していたムスリム客に大いに歓迎されていました。
 
地方にも広がり始めたムスリムインバウンドは、MICEという新たな可能性を現実的に見据える段階に入りました。来年はこうした各地の動きを、これまで以上にご紹介します。

*1 2015 ICCA Statics Report Public Abstract
*2 地域ブランド調査2016 都道府県ランキング
*3 ハラールメディアジャパン調べ

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2016/12/NNA_SG_161227.pdf


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