第28回: ムスリムフレンドリーランキングをアップさせるには

2018年5月30日掲載

先月発表されたGMTI(グローバル・ムスリムトラベル・インデックス*)2018から、前回はOIC(イスラム協力機構)非加盟国のランキングを中心に、日本に対する評価を考察しました。今回はOIC加盟国も含んだグローバルランキングから、日本がさらに上位を狙うには何が必要なのかを考察します。果たして日本は世界有数のムスリム(イスラム教徒)フレンドリーデスティネーションになれるのでしょうか。

不動の首位、マレーシア

第28回_図_スクショ

このチャートはGMTIのグローバルランキングを示しています。OIC非加盟国内のランキングで今年4位に付けた日本ですが、グローバルでは25位にとどまっています。昨年は非加盟国で6位、グローバルで33位でしたので、確かに今年もランクアップはしましたが、世界全体ではまだ十分に評価されているとはいえません。もっとも、グローバルのトップ20に入っているOIC非加盟国はシンガポールとタイのみですので、ハラール対応を始めてまだ数年の日本には無理のないことかもしれません。

チャートからはマレーシアが群を抜いてポイントが高いことが確認できます。過去3年間、2位との差は7.2、5.6、7.8ポイントと大きく開いていますので、しばらく首位の座は安泰だといえそうです。シンガポールもグローバルランキングでは2016年が8位、17年が10位、18年が7位と、トップ10をキープしています。ただマレーシアの背中は相当遠く、簡単に追いつけそうにありません。

マレーシアは多民族国家でありながら、イスラム教を国教と定めています。宗教の戒律であるハラールを認証規格化して振興していることはご存知の通りですが、国策としているツーリズムにおいてもハラールは大きな存在感を示しています。GMTIのランキング上位各国ですらお手本にしているマレーシアのホスピタリティーサービスとは、どのようなものなのでしょうか。

変わるラマダンの過ごし方
 
近年マレーシアは特に中東諸国からの旅行客の誘致に注力しており、イスラムの戒律に沿ったさまざまなサービスを展開しています。その成果を目に見えて確認できるのが、今月15日から始まっているラマダン、そしてその後のイード休暇(ハリラヤ・プアサ)です。ラマダンはイスラム暦9月に行われる宗教行事で、一般的には断食が知られています。

4週間に渡るラマダン期間中は、家族や友人と共に日中は断食し、日没後は共に食事を取り、そして神に祈りを捧げる神聖な期間とされています。従来期間中は海外への渡航を控えるムスリムが多いのですが、昨今は家族ぐるみで海外に出かけるムスリムが増えています。

そうした旅行客を積極的に呼び込んでいるのがマレーシアです。同じイスラム国でも、中東とは異なる雰囲気の宗教行事やイフタール(日没後の食事)を開催し、中東からの旅行客を魅了しています。ホテルにおいても、日中ノンムスリム客が食事しているのを目にすることがないよう配慮したり、客室内の食品をあらかじめ撤去したり、ザカート(喜捨、ムスリムの義務の一つ)のイベントを開催したり、著名な宗教家のセミナーを開いたりと、イスラミックサービスといわれる宗教に配慮したサービスが好評を得ています。

日本に求められるのは配慮
 
こうしたサービスに、特別な投資は必要ありません。いずれも基礎知識とちょっとした配慮で対応できるものばかりです。現にシンガポール、タイ、そして台湾でもイスラミックサービスを提供するホテルが出現しています。例えばスポーツジムやプールは男女別になっており、館内に動物をイメージさせるものは置かず、アルコールを提供しないバーカウンターまで用意されています。

果たしてそこまで必要かという議論はさておき、日本に求められているのは、そうしたニーズに対する配慮です。日本でお迎えする旅行客は、昨日海外でイスラミックサービスを受けているかもしれません。彼らにとって好ましくないことは極力排除するという姿勢が必要です。

ハラールの食事とお祈りスペースがようやく広まり始めたばかりの日本では、ラマダン期間中はムスリム旅行客の訪日がぱったり止まります。断食だから仕方ないと割り切るか、1年で最も消費が高まるこの期間を商機とみるか。ラマダン期間中でも訪日客が増えるようになると、日本はグローバルランキングの上位に名を連ねることができるでしょう。

* Master Card CreascentRating, Global Muslim Travel Index 2018

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。
https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2018/05/NNA_SG_180530.pdf



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