第25回: 急成長している世界のハラールツーリズム

2018年2月27日掲載

2017年ASEAN(東南アジア諸国連合)からの訪日客は290万人に達し、その中には多くのムスリム(イスラム教徒)客が含まれていました。そうしたムスリム客の急増に伴い、ハラールという言葉が一般にも知られつつある今、世界の観光業界で話題になっているのがハラールツーリズムです。今月は、今後日本でも注目されると思われる、このハラールツーリズムについて考察したいと思います。

訪日ムスリム客、20年までに100万人?

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まずご紹介するデータは「ASEAN主要国からの訪日ムスリム客の推移(推定)」です。これは日本政府観光局が発表している訪日観光客の統計をベースに各国の推定ムスリム比率をかけ合わせて試算したものです。各国の人口におけるムスリム比率は、インドネシア88.1%、マレーシア61.4%、シンガポール15%、タイ4.3%と仮定しています。

この試算によると、14年35万人程度だったアセアンからの訪日ムスリム客数は17年には約68万人に上ったと推定されます。この3年間における年平均成長率は24.3%でしたが、ASEAN諸国を対象とした訪日ビザの取得要件緩和からまだ数年であるため、訪日旅行の一般化が見込まれる今後の伸びはさらに大きくなる可能性があります。

仮に過去3年の年平均成長率が今後も続くと仮定すると、ASEANからのムスリム訪日客は19年に100万人を突破し、20年には130万人に達すると推定されます。ASEAN以外の国や地域にもムスリムはいますので、世界中からの訪日ムスリム客という観点からすれば、訪日ムスリム100万人時代に突入するともいえるのです。

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ハラールツーリズムとは何か

ハラールツーリズム、イスラミックツーリズム、ムスリムホスピタリティー――。今世界では様々な呼称でムスリム客向けのツーリズムサービスが開発、提供されています。ハラールフードやプレイヤースペース(祈祷所)が充実しているという点は共通していますが、大きくは宗教上の行為に関するアクテビティティと、そうではないアクティビティに大別されます。

例えば、サウジアラビアのメッカへの巡礼旅行は前者に属し、訪日旅行は後者の色合いが強いといったものです。ただサウジアラビアでもレジャーは楽しめますし、日本でもモスクを巡るといった体験はできるので、何をどう称するかはまだはっきり定義されていません。だからこそ、日本でもハラールツーリズムの開拓余地は大きいのです。

例えば、昨年ASEANで話題になったイスラミッククルーズが参考になるのではないでしょうか。シンガポール―インドネシア・アチェ州のクルーズでは、1名12万円相当のツアーに12カ国から1,000名のムスリムが集まりました。料理は全てハラールで、イスラム音楽のライヴ演奏、エクササイズ教室、ゲーム、イスラム法学者の講話など多彩なプログラムが提供され、中でも月夜の下での集団礼拝は「イスラミッククルーズならでは」と大変好評だったようです。このクルーズ船の船籍がイタリアであった事も注目に値します。

観光地づくりにハラールのセンス

日本ではスキー場でのハラールツーリズムが始まっています。六甲山スノーパーク(兵庫県)やふじてんスノーリゾート(山梨県)では、ハラールフードやお祈りスペースが用意されています。いずれも施設としてはハラール認証は取得していませんが、ピクトグラム(絵文字)の活用やノンポーク・ノンアルコールフード、さらに希望者には紙食器も提供するといった、できることから行うサービスがムスリム客から好評を得ています。

また、安比高原スキー場(岩手県)は一段と先を行っています。ホテル安比グランド内のレストラン「七時雨」はハラール認証を取得し、ラーメン、寿司、天ぷら、うどん、鍋、牛丼といった人気メニューを提供するだけでなく、ハラール弁当をゲレンデのフードコートへデリバリーしているのです。加えて、ネイティヴのインストラクターによるスキー教室を開催したり、公衆浴場に入れないムスリム客のために貸切風呂を用意したりするなど、至れり尽くせりのサービスを展開しています。

13年から始まったASEAN諸国へのビザ緩和から5年が経過し、ムスリム訪日客は東京、京都、大阪などの「ゴールデンルート」以外を周遊し始めています。ハラールフードとプレイヤースペースの提供は、もはや常識。それにユニークなアクティビティー(つまり、非日常的なコト消費)をプラスできるかどうかが今後の鍵となるでしょう。

地方都市の観光資源は東アジアや欧米からの訪日者が「次に訪れるべき日本」として注目しているように、訪日ムスリム客も熱い視線を注いでいます。日本のハラールツーリズムは新たなフェーズに入りつつありますが、まだまだ始まったばかりです。

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。
https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2018/02/NNA_SG_180227.pdf


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