第19回: ハラール食財を高級化するには

2017年8月29日掲載

訪日ムスリム(イスラム教徒)客の間で今人気が急上昇しているのが牛肉です。日本の牛肉は海外でもブランドとして認知されていますが、流通量が少ないため、めったに食べることができません。そのため訪日を機に食べたいという需要が増えていることを受け、国産牛肉のハラール化が動き始めました。今月は訪日ムスリム客がこれまで「食べたくても食べられなかった代表格」のハラールビーフについて考察します。

ムスリムは大のお肉好き

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上のチャートは食肉と食用動物の輸入上位国と日本の畜産物輸出実績を示しています。イスラム諸国の多くは食肉と食用動物を大量に輸入しており、その規模は日本の畜産物全体の輸出実績とは比較にならないほど大きい事が確認できます。つまり、日本産の牛肉や鶏肉はイスラム諸国にはほとんど輸出されておらず、それが訪日を機に食べたいという動機になっているのではないかと考えられます。

ハラール食材の中でも特に食肉類への認証は厳しいとされています。畜産環境、屠畜方法、使用道具、保管方法、流通と、まさに「Farm to Table」の過程でさまざまな要件が設定されています。食肉解体には免許保持者が必要とされている場合があり、しかし日本にはその免許保有者が少ないこともあって、国産ハラールビーフの生産は最近まで極めて限定的だったのです。

一昔前まで日本国内でハラールビーフを入手するには、ハラールショップか在住外国人向けスーパーマーケットで輸入品を買い求めるのが一般的でした。しかし今では、神戸物産(兵庫県稲美町)が運営する業界大手の「業務スーパー」が全国28店舗で展開しており、ハラールビーフは在住ムスリムだけではなく一般の消費者にも身近になりつつあります。同スーパーはもともと数多くの輸入ハラール食品を取り扱っていましたが、昨年開催されたハラールエキスポジャパン2016での反響を受け、ハラールビーフの取扱いを始めたのです。

ハラール化される国産牛肉

日本の国産牛肉のブランド数は154あり(*1)、そのうち飛騨牛(岐阜県)、阿波牛(徳島県)、尾崎牛(宮崎県)、門崎牛(岩手県)といったブランドがハラール認証を取得していることが確認されています(*2)。中でも注目度が高いのが神戸牛です。神戸牛はノンハラールでも絶大なブランド力を誇り、、本連載の第4回でご紹介したアンケートでも日本でやりたいことの上位に「ハラール和牛、神戸牛を食べたい」がランクインしたほどの人気です。

神戸牛はそもそも生産量が少ない事で有名ですが、ハラールとなるとさらに流通量が少なくなります。そうした希少価値の高いハラール神戸ビーフを都内で唯一提供しているのが、くすもと(港区西麻布)です。フランス料理出身のオーナーシェフが振る舞うコース料理はムスリム客に絶賛されており、今ではキャンセル待ち続きの超人気店になっています。

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ラーメン、餃子、たこ焼きといった庶民に身近な食事から始まった日本のハラールは、このように今では神戸牛といった高級食材にまで広がりを見せているのです。

ブランド食材で消費額アップを

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上のチャートは、東京と世界各都市のホテル宿泊費、夕食費の比較です。ご覧のように東京は海外主要都市よりも滞在費が安いことが確認できます。これは日本で過去20年以上に渡ってデフレ傾向が続いている間に、海外主要都市が割高になった結果です。

日本の今のインバウンド(訪日外国人客)は約70%が東アジア諸国からで、その多くは中間所得層であると推定されます。一人当たりの旅行支出は16万円程度であり、今後は滞在日数の長期化とそれに伴う消費額の増加が期待されます。消費額を増加させるには、単価アップ、消費機会の増加、リピート率の向上が考えられ、ブランド食材はその中でも有効な手段となるでしょう。

 ハラール化されていないブランド食材はまだまだあります。「今だけ、ここだけ、あなただけ」の視点で、特に地方の特産物を今一度見直されてはいかがでしょうか。

*1 「国産牛肉でイキイキ生活」日本食肉消費総合センター
*2 ハラールメディアジャパン 2017年7月末日時点調べ

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2017/08/NNA_SG_170829.pdf


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